【B】星のない夜 ~戻らない恋~

2.敗北感 - 葵桜秋 -



卒業式の夜。
両親が告げた祖父の遺言。



その遺言を聞いたとたんに、言い知れぬ敗北感が押し寄せた。



生まれた時からいつも一緒で同じ姿を持って、
同じように生き続けてきた仲が良かった私と咲空良。


だけど……実際のところは、いつも意識し続けてた。



咲空良に負けたくない。
咲空良には劣りたくない。



仲が良いように演じ続ける仮面の下
いつも比べ続けていた逃げようにない障害。



何度も何度も咲空良を見つめながら比べ続ける。




咲空良は、いつも私の裏の醜さなんて気が付こうともせずに
私の隣、真っ白いな笑顔で笑いかけ続けてくれた。



私が咲空良に笑顔を返せたのは、
咲空良が私よりも、人と交流することについて劣っていたから。



一人戸惑う咲空良に手を差し伸べて、
全てをお膳立てしてあげることで優越感を感じることが出来た。



それでも……咲空良のあの真っ白な笑顔は、
私には到底、出来るものじゃない。




優越感と劣等感の狭間。


彷徨い続ける私の心は、いつも荒波に浮かぶ小舟のよう。
少しでも道を見誤れば、その全てが海の藻屑へと消えてしまいそうで。



そんな心をお風呂にチャポーンっと浸かりながら、
ゆっくりと深海へと隠していく。





荒波を沈めて、本音を殺して……。
常に私の中の魔物を封印していく。






一時間ほど、ゆっくりと過ごして
仮面をつけなおした私はお風呂を後にした。




バスタオルで髪を乾かしながら、
二階の私たち双子の部屋へと向かう。




せめて一人、一部屋ずつあればと思うけれど
大学を卒業するまで私たちの部屋は別々になることはなかった。

そしてそれはいつも同じ。




二人の居住空間を遮るものは
おたがいのスペースを守るための、
アコーディオンカーテンが一枚あるのみ。



カーテンの隙間から、
常に相手の気配を感じる部屋。




「咲空良、音楽聞いてるところごめん。
 ドライヤー使うから」


一言、アコーディオンカーテンの向こうに声をかける。


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