鬼伐桃史譚 英桃

第二話・百鬼島




 そこは人間の住む都から二百海里(※東京から名古屋あたりまでの距離)ほど離れている離島で、海に囲まれている。

 暗雲が渦を巻き、空を覆っている。その地は永遠に晴れ間を見せることはなく、常にどんよりとした湿気を含む風が吹き、時には嵐にもなる場所だった。だから当然、植物は育たず、花は咲かない。あっても細い葉が特徴的な、針葉樹が細々とあるばかりだった。

 以前は人が住んでいたのだろうか。ただ荒れ果てた母屋がなんとか形を残していた。その光景に、ますます不気味さが増す。

 この島の名は、百鬼島(ひゃっきじま)。


 百の鬼が住まう島として、そう名付けられた。いったい誰(たれ)がその名を付けたのかはわからない。

 だが、その名はいつの間にか和の国中に広がっていた。



 潮の香りを含んだ生ぬるい夜風が、じっとりと吹く。


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