鬼伐桃史譚 英桃

第四話・焼け落ちた城




 ――場所は変わって、蘇芳城の艮(うしとら※北東)の方角には、なんとかして城外に出ようとしているふたつの姿があった。金の糸が施(ほどこ)されている煌びやかな着物は煤(すす)で黒くなり、もはや元の美しい着物の姿は何処にも見当たらない。


「ああ、姉上。このままではふたりとも捕まってしまいます」


 逃げ惑う家人(かじん)たちの悲鳴が二人の耳に突き刺さる。

 桜華(おうか)は息を切らし、先行く姉の梅姚(ばいよう)に告げた。

 ほんの小半時(こはんとき※15分前)までは、みずみずしい手入れされた庭に囲まれた座敷で家人たちと香を楽しみ、ゆったりとくつろいでいたというのに、今は辺り一面火の海だ。穏やかに暮らしていたその姿は何処にも見当たらない。突如として現れた鬼の襲撃。幼き頃からよく知っている家人たちの悲鳴が轟く城内は、まるで地獄絵のようだ。


「立ち止まってはなりません」



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