秘密~「ひみつ」のこと

歩道橋で

思いがけない、
あの人との出会い。

あの歩道橋で…

「ちょっと、君、大丈夫?」

思わず後ろから、力強い手で両腕を摑まれた。

「えっ?嗚呼、大丈夫です!」

「まさか、飛び降りようなんて考えてないよね?」

「まさか!」

力強く否定するあたしの声に安心したのか、
掴まれた手が緩んだ。

あたし、くるっと振り向いた。

「そんな風に見えました?」

今日まで何度この場所に立ったか…

でも、こんな風に
あたしのこと気に留めてくれる人なんか
誰もいなかった…

「見えたよ」

「ふふ、以前に飛び降りようと思ったことはありますけど、今日は、ぼうっとしてただけです。気にしてくれて、ありがとうございます」

思わずペコリと頭を下げた。

あたしの目の前には、
ちょっぴり怒った顔の、
スーツを着たビジネスマンが
怪訝そうにあたしを見つめてた。

歳の頃は45前後かな、
まぁ、大人って感じ。

あたし、唯。

32歳、
独身、
フリーター、
なんか世界が違うって感じ。

「君、ちょっとそこでお茶でも飲まないかい?」

「えっ?」

「時間つぶし、付き合ってよ」

怒った顔が、
優しい笑顔に変わって、
なんか、
お茶くらい付き合ってもいいかな、
なんて思った。






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