吸血鬼の花嫁






夜からまた、雪が降り出した。

ルーが街へ布を仕入に行ってから一週間が立つ。

今の時期、かなり南の方の街まで行かなければ、店は開いていなかった。

どこまで行ったのかは知らないけど、無事に帰って来て欲しい。

そう思いながら、どの衣装をどうやって作るか悩んだり、家妖精が持ってきた端切れで小物を作ったりしていた。

喋る相手がいないのは寂しい。

吸血鬼は、本を受け取ったあの日から、一回も姿を見ていなかった。


「ルーが帰ってきてくれないと、独り言が増えちゃうわ」


私は廊下を歩きながら呟いた。ずっと針仕事をしていたので、気分転換に廊下を散歩することにしたのである。

廊下は薄暗く少し怖かったけれど、他に散歩出来そうな場所がなかったのだ。



「あれ、女の子がいる」


声と共に廊下の暗闇から見知らぬ姿が現れる。

赤に近い茶と、明るいグリーンの瞳の青年が立っていた。

私より少し年上だろうか。人の良さそうな顔が、興味津々で私を見下ろしている。

見覚えはない…はずだ。


「初めまして、だよねぇ」

「どなたですか」

「ルー坊から聞いてない?」


お客さんが来るなんていう話は一つも聞いていない。

と、いうことはこの館の住人なんだろうか。


「もしかして家妖精さん?」


青年がにこっと子供のように笑った。


「そうでーす。家妖精のハーゼオンです、よろしく」

「私はアイ…」

「わ、いてっ、こらやめろって」


ハーゼオンと名乗った青年は、私の自己紹介の途中で突如何かから体を庇った。

庇いながら、私を見てえへへとはにかんだ。


怪しい。

私の直感が告げる。

名乗ろうとした名を慌てて飲み込んだ。



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