想い出は珈琲の薫りとともに
1.uno
 全ての道はローマに通ず、と言ったのは誰だったか。
 
 石畳を歩きながら私は思う。まるで写真から抜け出してきたみたいな、趣きのある街並み。どこを歩いても素敵でワクワクしてしまう。
 ここに来て早三週間。一ヵ月の短期留学も残すところあと僅かだ。

 (ちょっと寂しい……。また、来られるといいんだけど)

 そんなことを思いながら、私は目的のバールの扉を開けた。

 私は今、バリスタとしてステップアップしようとここローマに勉強しにきていた。普段は東京都内にあるカフェで働いていて、そこで仲間達の後押しもあり留学を決めたのだった。

 ローマ中のバールを散策しては、出されるコーヒーを研究する毎日。元々大学でイタリア語は学んでいたから不自由はしなかった。

Buon(ボン) giorno(ジョルノ)!」

 私はそう言って、笑顔で店に入った。

 (あ、雰囲気いいかも)

 もう何軒入ったかわからないバール。でも、私がそう思える店は意外に少なかった。
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