想い出は珈琲の薫りとともに
初めての一歩
ここ……ですよね……?
タクシーから降りると、目の前にそびえるガラス張りのビルを見上げた。手には少しよれてしまっている名刺。それだけを頼りに、なんとか一人でここまでたどり着いた。
「お客さん、荷物荷物」
みっともなく口を開けてビルを見上げ立ち尽くしていた私の元に、家からここまで運んでくれた年配のタクシー運転手がやってきた。トランクから出してもらったオレンジ色の大きなスーツケースは今日初めて使うものだ。
数ヶ月前、海外で薫様とパーティーに参加するはずだった私にお父様が買ってくださったものだ。けれどそれは果たされることはなかった。出発する日に熱を出してしまったからだ。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするとその持ち手に手を掛けた。そして、いざ、と思うが不安になってしまった。
「あの。お尋ねいたします」
ここまで来たものの、この先どうすればいいのか見当もつかない私は、運転手に尋ねてみる。
「なんですか?」
「この会社まで行くのはどうすればいいのでしょうか?」
名刺に記載されている住所。これを見せてここまで来たが、その住所には二十三階と記されている。
「ええっ? そんなこと聞かれても……。とりあえずビルに入れば守衛がいるんじゃないですかね」
運転手は面倒くさそうに言ってビルを指差す。ガラス張りのエントランスにはそれらしき人物が立っているのが見えた。
「ご丁寧にありがとうございます」
再び丁寧に頭を下げると、長い髪が冬の冷たい風に煽られ私の頰を撫でていた。
タクシーから降りると、目の前にそびえるガラス張りのビルを見上げた。手には少しよれてしまっている名刺。それだけを頼りに、なんとか一人でここまでたどり着いた。
「お客さん、荷物荷物」
みっともなく口を開けてビルを見上げ立ち尽くしていた私の元に、家からここまで運んでくれた年配のタクシー運転手がやってきた。トランクから出してもらったオレンジ色の大きなスーツケースは今日初めて使うものだ。
数ヶ月前、海外で薫様とパーティーに参加するはずだった私にお父様が買ってくださったものだ。けれどそれは果たされることはなかった。出発する日に熱を出してしまったからだ。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするとその持ち手に手を掛けた。そして、いざ、と思うが不安になってしまった。
「あの。お尋ねいたします」
ここまで来たものの、この先どうすればいいのか見当もつかない私は、運転手に尋ねてみる。
「なんですか?」
「この会社まで行くのはどうすればいいのでしょうか?」
名刺に記載されている住所。これを見せてここまで来たが、その住所には二十三階と記されている。
「ええっ? そんなこと聞かれても……。とりあえずビルに入れば守衛がいるんじゃないですかね」
運転手は面倒くさそうに言ってビルを指差す。ガラス張りのエントランスにはそれらしき人物が立っているのが見えた。
「ご丁寧にありがとうございます」
再び丁寧に頭を下げると、長い髪が冬の冷たい風に煽られ私の頰を撫でていた。