遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
1.遅刻、遅刻〜!
 遅刻、遅刻〜と言いながらパンをくわえて走っていて、角を曲がると誰かにぶつかる。
──それは運命の相手。

 実際は遅刻しそうになっていたら、ただ走るだけだ。

 杉原亜由美は駅の改札をかなり早足で通り抜ける。その時改札に向かっていた人と肩がぶつかってしまった。

「おい!」
「す、すみません!」
 謝ったのだし、それで終わるかと思ったのだ。

 そうしたら腕を掴まれた。
「わざとぶつかっただろう⁉︎」

 そんな訳はない。完全に因縁なのだが、焦っていた亜由美は分からなかった。
 確実に分かっていたのは、今日は遅刻だ、ということだ。

「すみませんでした」
 亜由美が足を止めて、ぶつかったと主張する男性に向かって頭を下げるとホームから乗りたかった電車が出発する音が聞こえた。

──終わった……。

「これで済ませるつもりか? あんたがぶつかった肩が痛えんだけどな」
 遅刻どころではない。完全にヤバい人に捕まってしまったことを察して、亜由美の眼の前が暗くなった。



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