遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
3.乗りかかった船
「大丈夫ですか?」
 靴を引っ張っていた亜由美の視界に入ったのは見覚えのある革靴である。

 端正な顔立ちに涼しげな目元。見覚えのある男性だ。声をかけた彼も目を見開いていた。

「朝の人ですか?」
「朝はありがとうございました」

 とてもいい人で可能ならばお礼もしたいと思っていたのに、よりによって片足裸足の姿を見られるとは、もう本当に今日はどうなっているのか。

「大丈夫?」
 踏んだり蹴ったりの一日で、亜由美の目には本当に涙が溜まっている。

 困っていても誰も助けてくれなかったのだ。
 この目の前の彼以外は。

「ヒールが抜けなくて……」
「俺に捕まっていて。引っ張ってみる」

 片足裸足の亜由美を気遣って、彼はしゃがんだ膝に亜由美の足を乗せようとする。

「あの! もう地面に足をつけちゃったので、スーツが汚れちゃいます」
「そうか……」

 そうしたら、彼はポケットからハンカチを出して地面に置いた。
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