遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「鷹條、何泣かせてる?」
「え? ちょっ……そんなつもりは……。ごめん。何か俺が失礼なことを言ったんだよな」

「いいえ。ちょっと、今日は色々あったので。鷹條さんのご親切にとても感謝しています。本当にありがとうございます」

「いや……」
「鷹條、ちゃんと責任持って最後まで送れよ?」

 にやにやと笑いながらそう言う香坂に鷹條は苦い表情を返していた。
「うるさいな。分かってる」

 その言葉通り、鷹條は診察が終わった後も、亜由美と一緒に帰ってくれたのだ。
 タクシーが来るまで、病院の外のベンチで二人で並んで座って待っていた。

「お時間たくさん使わせてしまってごめんなさい。今朝も、今もありがとうございました」
「そんなのはいいよ。少しでも役に立てたのならいい」

「そんな! 少しでも、なんて……! 私はとても嬉しかったです。誰も助けてはくれなかったから。会社でもそうなんです。私は大丈夫、と思われてしまうから」

「しっかりして見えるからな」
「あの! 普段はもうちょっとしっかりしているんです。そうだわ。今朝のことも今日のこともぜひお礼をさせてください」

「いや、本当に気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいきません!」
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