遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「すごく嬉しい。こちらこそ……よろしくお願いします」

 亜由美は綺麗なだけに笑顔になるとまるで花が咲いたようで、鷹條はそれを眩しいような気持ちで見ていたのだ。

 その後お互いの連絡先を交換し合って、亜由美の会社の前まで鷹條は送ってくれた。
 そこから警察庁は皇居を挟んで斜め向こうの通りになる。

「何かあったら連絡して。あ、何もなくても。亜由美は心配だ」

 急に名前を呼ばれてドキッとした。
(名前、覚えてくれていたんだ……)

 それに心配してくれる人がいるというのも、とても嬉しいものなんだと亜由美は少しくすぐったいような気持ちになったのだ。

「大丈夫ですよ?」
「大丈夫じゃない。俺も……連絡する」

 その表情はとても甘くて、名前を呼ばれたのもドキッとしたけれど、こんなに甘い表情をするのもズルくないだろうか。
 こんな顔されたら、ますます好きになってしまう。

「そんな顔するな。離れ難くなる」
 離れ難い気持ちは一緒だ。
 鷹條は軽く亜由美を抱き寄せ、ぽんぽん、と頭を撫でる。そして、すぐに離れた。

「今は、ここまでだな。また連絡する」
 照れたような顔で笑って、軽く手を挙げて去ってゆく鷹條を亜由美はぼうっと見ていたのだ。

(だ……抱き寄せられたっ。頭、ぽんってされちゃった。今はって? それにあんな顔……ズルくない?)
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