こんなのアイ?
克実と悠衣の低い声が揃って私は二人を見比べる。
「二人とも怖い顔して…」
「そのタクシーは俺がよく知った個人タクシーで愛実が出てくるまで待ってるように伝えてある。急ぐ必要はない。仕事が終わればそれで帰って」
悠衣のあとに何故か当然のように克実が私に言う。
「そうしろ。明日はタクシーだ、愛実」
「…克実まで何言うの?」
「皆藤さんのご厚意を無駄にするな」
そして克実は悠衣に向かって
「人間誰しも失敗、失態はありますからね…俺は愛実が幸せならそれで何も言わない」
そう言ったあと、私に帰るぞと言いながらマンションへ入って行った。
「明日金曜日の最終新幹線で帰ってくる。愛実…土曜のディナーに誘っても構わない?」
見たことのないような不安気な悠衣を見て、もう迷いはなかった。
「何食べさせてくれるの?」
「何でも」
「何でもは無しだよ、ふふっ」
「肉、魚、フレンチ、イタリアン、寿司、懐石…」
「ふふっ…何でもだね、お任せで楽しみにしてる」
そう言いマンションへ向かうと
「いいのか?」
と後ろから悠衣の声がする。開いたドアから彼を振り返ると
「ありがとう。美味しいもの食べさせてね」
と、大きく手を振り克実の部屋へ急いだ。