こんなのアイ?





 週末、悠衣とあの肉バルに来ている。

「くっくっ…愛実、この店が一番静かだな」
「へっ?」
「この店の料理を見る目はハンターの目で、黙って黙々と食ってる」
「…ハンターの目…」
「それも可愛い」
「ねぇ…肉寿司頼んでくれてたっけ?」
「もちろん。愛実の締めの肉寿司」
「…やった…もう何言われてもいいって気になるよね…ここのお肉を前にすると」
「来週は焼き肉にするか?」
「あーごめんなさい。来週どうかな…会えるかわからない」

 一旦お箸を置き悠衣に、克実が病院を辞め開業すること、私も夏に退職して9月のクリニック開業から一緒に働くことを話した。

「来週末は克実のお疲れ様会のつもりなの」

 悠衣はグラスのワインを飲み干し、自分でグラスを満たすと

「愛実は?」

 ボトルを少し揺らして聞いてくれる。

「あと一口だけ頂こうかな、ありがとう」
「開業医か…小児科だったな?」

 私のグラスにワインの注いだあと静かにボトルを置きながら彼が聞く。

「うん、小児科クリニックになるの」
「愛実が週末の講座を取っていたのはそのため…」
「そう。もう資格はあるんだけど忘れていそうで」
「場所は?」
「克実のマンションから歩いてすぐ」
「そうか…忙しくなるな」

 悠衣は私を真っ直ぐに見つめると、ふっと頬を緩めとても甘い声で言う。

「愛実…このまま触れられなくても…俺が愛実を想う気持ちは変わらない。俺と一緒に住むこと…考えてくれないか?俺は一緒に暮らしたいと思う」
< 145 / 196 >

この作品をシェア

pagetop