こんなのアイ?
fourteenth chapter




 私のマンションは、悠衣に紹介してもらった滝沢社長のご厚意で思った以上の価格で売却出来た。滝沢社長によると、場所がいいのでカップル向け、二人暮らし向けの賃貸物件としてすぐ借り手が付くという。持参していた必要書類にも不備がないということで翌週すぐに入金して下さるということだった。

 そして今、私は克実と向き合っている。

「改まって話って何?」
「克実、これ受け取って下さい。クリニックのために使って」

 私は真新しい通帳と印鑑を克実に差し出した。怪訝そうな顔でゆっくりと手を伸ばした彼は通帳の中を見てすぐに閉じると

「これどうした?」

 と低く聞く。聞くと言うよりは責めている風だ。普段からクールな克実のこの態度は人からすれば冷たく怖い印象だろうが、私は怖くもなければ冷たくも感じない。ただ過保護に妹の心配をする兄なだけだ。

「マンションを売った」
「お前の大事な財産だろうが」
「そうね…それを私が生涯働こうとしている新しい財産に注ぎ込むことにしたの。有効利用よ」

 真っ直ぐ彼に向かい躊躇いなく言いきると彼は小さく頷きながら息を吐いた。

「俺、そんな余裕なさそうに見えたか?」
「ううん、全く。でも私の予想よ…克実の準備資金と実際の必要経費の予想…そして初めの数ヶ月はお給料の支払いが大変かと思ったの」
「不動産売買なんて…どうやったんだ?悠衣か?」
「うん。彼が滝レジデンスの社長を紹介してくれた」
「そうか…ありがとう愛実。使うかどうかは今のところわからないが愛実の気持ちごと有り難く受け取っておく」
「うん、遠慮なく使って」
「悠衣は今どこだ?」
「マンションで仕事してるよ」
「そうか…礼を伝えに行くよ」

 こうして二人で悠衣のマンションに向かった。
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