こんなのアイ?




 あんなに震えていた1分後に‘ありがとう、助かった’なんてどれだけ気持ちを押さえつけたら言えるんだ。女に一方的に話され、一言も自分は発していないじゃないか…バカマナ…と心の中で呼んで腕に閉じ込めた。

 あー俺いま落ちたかもしれない…バカマナに。

 俺の腕の中で呼吸さえ感じさせない愛実のこめかみに唇をつけながら、ゆっくりと言葉を探し紡ぐ。

「愛実…息まで潜めて…苦しいな。呼吸すれば心の内をさらけ出しそうで…怖いんだよな…でも、息も言葉も…涙も飲み込んで蓋したら愛実がパンクする…全て聞くつもりも聞きたいとも言わない…でも…何か吐き出せ」

 寝ているのかと思うほど変わらない彼女の様子を覗き込もうと思った時

「ありがとう、悠衣。私、大丈夫だから…気を遣わせてごめんな…」
「バカマナ」

 まだ強がる言葉が聞こえたのを遮り心の中と同じように呼んだ。

「ふふっ…バカマナって私?当たってるから反論出来ないね」

 そうクスクス笑う愛実に低く言う。

「お前いい加減にしろよ。このままじゃ帰さないぞ」
「おおこわっ…本当に大丈夫なの」

 まだ強がる愛実にむしゃくしゃする。なぜ泣き言ひとつ言えない?愚痴ひとつ溢せない?気持ちを抱え込み閉じ込めるのが習慣づいてる?

 今夜俺を本気にさせたんだ…これから覚悟しろよ、愛実。
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