こんなのアイ?
sixth chapter





 師走に入ったある日、仕事を終え事務所を出たところに見覚えのある赤い車が止まっている。ブレントの手が治った時に紗綾と3人で食事をし、その時に乗せてもらった車で紗綾が‘シボレーって、さすがアメリカ人’と言っていたからアメリカの車かなとは思うけど私は色で覚えているだけだ。克実の車はネイビー、悠衣の車は黒、ブレントの車は赤だ。

「愛実、お疲れ様。乗って」
「こんばんは…どうかした?」
「克実のところに行くから、その前に食事しよう」

 今夜、克実のところへ映画のBlu-ray20本以上を持って行くという。彼らは映画の趣味が似ていて私のところで数回会ううち貸し借りが始まっていた。ネットで見られると私が言った時、二人揃ってパッケージを手にする楽しみは欠かせないと言ったので気が合うようだ。

「予定ではもう帰ってる時間なんだけど昼間急変患者がいたからもう少し様子を見てから帰るって」
「そっか、心配だね…小さな患者さんかもしれないもの」
「ほんと…医者ってすごい仕事だよね」

 彼は事務所からそう遠くない洋食店に連れて行ってくれた。注文を済ませたあと

「愛実、食事の準備してた?突然でごめんね」

 彼は2週間、私の食生活を見たので聞いてくる。私が朝から下ごしらえをしたり、冷凍庫の物を冷蔵庫に移したりすることがあると知っているのだ。
 
「大丈夫。今日は特に何もしてなかったの」
「それなら良かった。紗綾から連絡あった?」
「あったよ、クリスマスと忘年会と合わせて一度飲み会するって」
「行くよね?」
「…まだ返事してないの」
「知らない人がいるから?」

 2週間毎日会ううちに彼はかなり私の思考を理解している。そして私は同じく2週間のうちに彼との会話のリズムを楽しめるようになっていた。

「パーティーなんて相手の事を深く考えて参加するものじゃないよ。僕と紗綾の事を知っているのと、美味しい料理とワインを楽しもうってだけで十分参加理由だよ」
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