こんなのアイ?
seventh chapter





 誘いはあったが悠衣ともブレントとも会わずにいた。二人とも大人の余裕からか気持ちが伴わない私を責めることなく電話やメッセージを送ってくれる。結婚は前提でないと聞いても、もう恋愛さえ面倒かもしれない。どこかで人のことが信じられないのかもしれない。

 克実の忙しさに彼の部屋に泊まったり、一緒に私の部屋で食事したりしながらサポートを続け、彼は3月末に病院を辞め9月にこどもクリニックを始めると決めた。私は夏に税理士事務所を辞めることになる。クリニックの場所が克実のマンションの裏手のマンション一階。歯科と美容室が隣に入るという。マンション2棟分をくるっと回る徒歩5分くらいの立地だ。

「愛実、マンションどうする?」
「とりあえず通いにするよ」
「午後診察の日もあるぞ」
「うん…でも克実の部屋に引っ越すと24時間365日克実と一緒に過ごすことになるよ」
「そう言われるとそうなるか…一人の時間も欲しいよな」
「ふふっ、お互いにね」
「俺のマンションに空きが出たら良いよな。同じマンションの別の部屋」
「ありだね、うん」

 数ヶ月ぶりに二人で訪れたバーでそれぞれ2杯目のグラスを傾けながらも、非日常には浸れず現実的な話を他のお客さんの邪魔にならないよう小さく続ける。

「年明けから3月の年度末まで気をつけて見ておくよ、空きの情報」
「うん。あー久しぶりのウイスキー美味しかった」
「ここ俺…何ヵ月ぶりだったかな…マスターごちそうさまでした」

 克実が支払いを終え二人で店を出て歩き出した時

「愛実、克実」

 と後ろから呼び止められた。
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