だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

506,5.Interlude Story:Michelle

 フリードルはあたしに目もくれず、マクベスタと一緒にどこかへと行ってしまった。
 正確に言えば、目は合った。だけどそれは……乙女ゲームのようなドキドキする視線の交わりではなく、彼を見つめるあたしと、偶然こちらを蔑んだ彼の視線が少し重なっただけのこと。
 フリードルは、欠片もあたしに興味が無いらしい。

 分かってはいたけれど、やはり初期のフリードルの好感度はド底辺だ。流石は好感度を上げるのが異様に難しいと言われていた二作目の追加攻略対象達……! ミカリアもそうだけど、特にフリードルとマクベスタは好感度変動がシビアで攻略が難しい。
 フリードルはそもそも滅多に好感度が上がらないし、マクベスタは少しでも選択肢を間違えればすぐに好感度がだだ下がりする。

 そんな経験があるから、初期の最低好感度のフリードルにも一応慣れてはいるのだけど……やっぱり、大好きな人に冷たくされると辛いなあ。
 彼の溺愛っぷりを見た事があるだけに、益々温度差を感じてしまう。
 いくらあたしがヒロイン(ミシェル)でもやっぱり最初からなんでも上手くいく訳ではないのね。ゲーム通り、コツコツと好感度を積み重ねていかないと。
 それまでは皆からの愛もおあずけかぁ……。

 でもめげないぞぅ! 頑張って好感度を上げて、夢の逆ハーレムエンドを──痛くない無償の愛を手に入れてみせる!

「……──はぁ。それにしても、まさか攻略対象が全員帝国に集まるなんて。きっと、あたしがここにいるからサラもいるだろうし……ゲームから色々と変わっちゃったなあ」

 ロイとセインに頼んで、あたしは一人になっていた。テラスの手すりにもたれかかり、夜風に撫でられながらため息をつく。
 ……もし、この変化を起点にもっと大きな変化が──バタフライエフェクトが起きてしまったら。
 その結果、あたしの夢が叶わなかったら……どうしよう。

「あたしの恋、また叶わないのかな……」

 すぐに後ろ向きになって、一人でじめじめと悩んでしまう。お兄さんと出会ってから少しはマシになったけど、まだまだ健在な悪癖だ。
 ……そうだ、お兄さんと出会ってから、あたしは──。

「神に愛されたお嬢さん。少々、宜しいかな?」

 ぼんやりと『お兄さん』について何か思い出しそうになったのだが、誰かに話しかけられた事によりそれは中断される。
 振り向くとそこには、派手な蛍光ピンクの髪にサングラスを掛けたいかにも胡散臭い男の人と、角のようなものが生えた水色の髪の女の子が立っていた。
 こんな人達、食事会にいたっけ……?

「あたしに、何か用ですか?」
「フフ、そう警戒なさらず。わたくしどもはただ、アナタの力になりたいのです」
「力……?」

 警戒していたのに、その言葉を聞いて何故か緊張が和らぐ。

「そうなの。ウチら、アンタのお手伝いをするためにきたの」
「マーミュが言った通り──わたくしどもに、アナタの望みを叶えるお手伝いをさせていただけませんか?」
「なのなの!」

 サングラスの人に頭を撫でられ、マーミュと呼ばれた女の子はふふんと笑みを作る。

「望みを叶えるお手伝い、って……そんな事をするメリットがあなた達にはないじゃない」
「いいえ、ありますとも。わたくしどもがアナタの望みを叶えるお手伝いをします。ですので、その見返りに──アナタには、少しばかりその力を貸していただきたいのです」

 あたしの力──……天の加護属性(ギフト)のこと? この人達も、加護属性(ギフト)を狙う悪い人達なの?

「ユーミスのせいでまた警戒されちゃったの」
「おやおや……わたくしの言葉が足りませんでしたね。正確には、ほんの少しだけアナタの特別な魔力を拝借したいだけ。それ以上は絶対に求めないと約束しましょう」

 まただ。この人達の言葉を聞けば聞く程、どうしてか警戒を緩めてしまう。
 信じてもいいかなと、思って……しま、う。

「わか、った。あたしの力を少し、渡す……から、あたしの望みを叶える手伝いを、して」
「──はい。これにて取引成立ですね。では早速……アナタの望みは、なんですか?」

 鋭く、悪辣な笑み。サングラスの向こうに僅かに見える瞳が醜く歪んで見える。
 だけど、あたしは彼等の手を取ってしまった。

「皆に愛されたい。攻略対象の皆に、たくさん愛されたい」
「……成程。では、アナタが望む未来が訪れるよう──溢れんばかりの奇跡が起きる事をここに願いましょう! そぉーれっ」

 マジックをかけられたようだった。
 パチンッと指を弾いた音が耳元で響く。その瞬間、ハッとなって辺りを見渡すも、先程の二人は既に姿を消していた。
 夢でも見ていたのかな。
 そう思うも束の間、いつの間にかあたしの手には見慣れないネックレスが握られていた。満月に透かしてみるとオーロラに輝いて見える、ひし形の美しいダイヤモンド。
 それに銀糸が通されていて、あたしは無意識のうちにそれを首に掛けていた。

 するとどうしてだろう。不思議と大丈夫だと思えるのだ。
 きっとどうにでもなると──あたしの望みは叶うと。そう、奇跡的に思えてしまうのだ。

「……そうだよね。きっと叶うわ! だってあたしは────ミシェル・ローゼラだもの!」

 だから安心してね、お兄さん。
 あたし、今度こそ上手くやるよ。
 我儘に、自由に──……願いを叶えてみせるね。


 ♢♢


「──こちらユーミス。無事、神々の愛し子に()を渡しました」

 王城の天辺。誰も寄り付かないその場所で、男は宝石に向けて声を発していた。

『……そうか。ではこれより、予定通り饗宴の準備に移る。汝はマーミュと共に、引き続き浸食(・・)に当たるように』
「はっ! かしこまりました、隊長」
「わかったのー!」

 ユーミスとマーミュが敬礼の姿勢をとる。そして、

『……──全ては、我等が女王陛下の為に』
「「……──全ては、我等が女王陛下の為に」」

 彼等は一言一句違えず声を揃えたのであった。
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