だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

532.Main Story:Ameless2

「君は誰にも会いたくないのだろう。ならば、俺はその手助けをしよう。君にはこちらの不手際で苦労をかけてきたからな、せめてもの詫びだ」
「でも……」
「そう案ずるな。言っただろう、君は俺にとって孫娘のようなもの。可愛い孫娘の望みを叶える為──という建前は、シルフ様の捜索の邪魔をする理由足り得るとも」

 繰り返される孫娘という言葉。祖父母という存在に縁が無い為、孫扱いというものはかなりむず痒いのだが……ちょっぴり、嬉しくもある。

「……それじゃあ、お願いしてもいいですか? ──おじいちゃん」

 祖父母という存在への憧れか、余計な言葉が口をついてまろび出てしまった。いくら相手が孫娘のように思ってくれているのだとしても、初対面でこれは流石に失礼だと短く息を食む。
 しかし、

「──ッ!! おじい、ちゃん。おじいちゃん……おじいちゃんか…………」

 フリザセアさんはまるで雷を受けたかのような表情で固まり、一拍置いて深刻な面持ちで考え込んだ。……もしかして怒られるのかな、絶対そうだよね?! と内心ハラハラしていると、

「……──良いッッッ!!」

 恍惚とした表情で唸るように叫び、彼はガッツポーズを作った。

「姫よ、是非ともこれからは俺を『おじいちゃん』と呼んでくれ。姫であれば許すとも」
「え? あぁ、はい……分かりました……」

 このヒトがそれをお望みなら、一応従っておこう。ちょっぴり呆れつつも、私は、おじいちゃんが出来た事を密かに喜んでいた。


 ♢♢♢♢


「うわっ、また落雷……時々火柱も見えるし、帝都で何が起きてるの……?」

 フリザセアさんと行動を共にすること十数分。彼が凍結作業を担ってくれるので、私の負担は圧倒的に減り、体力と魔力を温存出来るようになった。
 シルフの捜索とやらから逃れるように立ち回っているそうなのだが、フリザセアさんは的確に穢妖精(けがれ)が暴れる場所に向かっている。
 その道中で、私は度々よく分からない自然現象を目撃していた。

「ああ、あれはエンヴィーとエレノラの仕業だ。王命で喚ばれた者達の中でもあの二体は特に殺傷能力が優れている。ゲランディオールもいるが、彼はあまり派手を好まないからな」

 フリザセアさん同様、色んな精霊さん達が派遣されているらしい。
 何より──師匠もいるんだ。師匠とも、顔を合わせづらいなぁ……こんな情けない弟子、師匠もきっと呆れちゃうだろうから。

「──っアミレス!」

 ふと、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。だが私の記憶が正しければ、その声の持ち主は私をアミレスとは呼ばない。

「……ユーキ? そんなに焦ってどうしたの」

 桃色の髪を振り乱して、ユーキは肩で息をしながら駆け寄ってくる。その後方には、黒い大型犬を抱えて走るシャルの姿まで見えた。

「皆が……街の人達の様子が変なんだ。シャル兄が言うには、ディオ兄達まで様子がおかしくなったらしくて……!」
「一旦落ち着いて。一体何があったの?」

 こんなに取り乱しているユーキは初めてだ。つまり、彼がここまで切羽詰まる程の何かが起きたのだろう。

「僕もシャル兄から聞いただけだから、ディオ兄達の事は分からないけど……少なくとも、街の人達が皆変なんだ。何が変なのかは分からないけど、とにかくおかしいんだよ……っ」

 私の両肩を掴み、彼は胸元に顔を埋めてきた。そして、ユーキが震える声で懇願してくる。

「お願い、だから……皆を元に戻してくれ……! もう僕は、誰とも──離れ離れになりたくないんだ…………っ!!」

 その言葉は、身を守る為に言葉を武装する彼のものとは思えない程に、心から吐き出された叫びそのものであった。
 この流れも数時間ぶりだ。どうして今日はこう、立て続けに良くない事が起きるのだろうか。

「……──っシャル! 何があったか説明して!」
「あ、ああ! 俺もまだ現状を上手く整理出来ていないが……頑張って説明しよう」

 微かに唸り声をあげる犬を抱え遅れてやって来たシャルは、頬に冷や汗を滲ませ口火を切った。

「今から三十分ぐらい前の出来事なんだ」

 シャルが真剣な口調で語り出す。それを、私とフリザセアさんは静かに聞く。

「──俺達は、国教会の凄い人が西部地区まで来て慈善活動をしていると聞いて、様子見に向かった。メアリーやシアンなんかは『どうせ偽善者の暇潰しか何かでしょ』と嘲笑うつもりだと白状する程で、正直俺達もさほど期待はしていなかったんだ。……ただ、既にその人に会ったという街の人達の様子が、ユーキの言う通りもれなく変だった」

 真剣な様子から語られる話に、固唾を呑む。

「嫌な予感がしていたけど、エリニティとクラリスが乗り気で、ユーキに留守番を頼んでとりあえず皆で冷やかし程度に見に行ったら──……一瞬にして、皆がおかしくなってしまった。ずっと例の人を見つめているし、その場を離れようともしない。俺以外の皆が一気におかしくなったんだ」

 ずっと我慢していたのか、ここでシャルの表情が悲痛に染まっていく。

「しかも、例の人を一目見た瞬間──ジェジが心臓を抑えて苦しみ出して、しまいには『イヤだ……っ!!』と呟き獣化して暴れはじめた。ジェジに人を傷つけさせたくなくて、俺は慌ててジェジを麻痺毒で弱らせて、家まで連れ帰ったんだ。それでこの事をユーキに相談したら、ユーキが顔を青ざめさせて家を飛び出した。……多分、どうしたらいいかユーキも分からなくて、それで誰か頼れる人を捜そうとしたんだと思う」
「……その結果、私を見つけたのね」
「ああ。でもまさか、ユーキがここまで取り乱すとは…………俺もびっくりだ」

 軽率に相談してすまなかった。とシャルが頭を下げる。それにユーキは、「……そんな事で謝らないでよ。僕も少し、混乱しすぎた」とそっぽを向きながら答えた。
 シャルの説明から察するに、今彼が抱えている黒い大型犬は黒狼(ジェジ)なのだろう。獣人はその多くが獣化という獣の姿になる能力を持つという。今まで見たことがなかったから、その可能性が思い浮かばなかった。
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