だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

601,5.Interlude Story:Others

 アミレスの生殺与奪の権を、敵に握らせてしまった。
 これは俺の落ち度だ。才能に胡座をかき、慢心していた俺の責任。……アイツが無茶しないように守るって、支えるって、そう決めたのに。よりにもよって親友の命を危険に晒してしまった。

「…………二度と奪わせてたまるか」

 無常な現実からも。非情な運命からも。
 絶対に、守り抜いてみせる。

 《創造者(マスター)の身体負荷率、許容値を三十七パーセント超過。当機を介しての魔法使用も推奨しかねます》
「俺は大丈夫。公女のおかげで少しはマシになったから」

 復讐鬼となった妖精を迎え撃つべく発動した魔法と、アミレスを守る為に使用した翼や水。立て続けにサベイランスちゃんを介せず魔法を発動したので、その反動として酷い頭痛が発生している。
 俺は多彩な魔力を持つ代わりに、普通に魔法を使用するだけで常人の数倍は反動がある。それを緩和すべく、サベイランスちゃんを介して魔法を使うようにしているのだが……今回ばかりは、仕方あるまい。

「──サベイランスちゃん。領域の解析進捗は?」
 《指定対象の解析進捗率四十二パーセント。特下術式開帳条件は未達成です》
「いや、発動するぞ。どれだけ不確かでも、不安定でも、使える手は全て使う。どんな手段を用いてでもアイツを守るんだ」
 《…………承認。創造者(マスター)命令(オーダー)を受理致します。──待機状態解除。機能制限解除。特下術式、限定開帳。対世界虐殺機構(バッドエンドギア)、強制起動。身体負荷軽減(リスクヘッジ)の為に、大戦兵器化(モード・ワルキューレ)を並行発動します》

 サベイランスちゃんが、機械仕掛けの双剣へと変貌する。
 二作目のストーリー……その最後に待ち受ける厄災を倒すべく、念の為にと作っておいた特下術式(とっておき)。先程はその場でアレンジを加えてあの形になったが、本来この魔法は、世界の脅威たる存在を(たお)す為に編み出したもの。
 敵を解析して、最適解を導き出し、定められた発動条件(セーフティーライン)に達さない限りは完成しない不完全な術式。それが、特下術式:対世界虐殺機構(バッドエンドギア)だ。

 世界だって殺せる可能性がある魔法なのだ、発動に於ける代償は想像に難くない。──基準に到達してようやく、少しは安心して発動出来るといった具合だろう。しかし、それを待っている暇など今の俺には無い。

 一刻も早く、アイツの命を脅かす者を殺さなければならないのだから────。


 ♢♢


 我が妹の護衛を放り出し、カイル・ディ・ハミルが前線に出てきた。その手には魔導機構(カラクリ)と似た何かで作られた不可思議な剣が二つ、握られている。
 鼻につく阿呆面を引っ込め、彼奴は駆け出した。

「カイル……!?」
「──コイツにアミレスの生死を握られた。早く殺さないと、アミレスが危ない」
「「「!!」」」

 入り乱れる音で、彼等が何を話しているのかは分からない。だがその表情が鬼気迫るものへと変化した事から──不本意ながら、妹関連であることに違いは無さそうだ。
 入れ替わり立ち代り妖精を攻撃する男達。そこにあの男が加わる事で、宝石の妖精はついに余裕を失いはじめた。
 ……誠に不本意だが、カイル・ディ・ハミルの能力は本物だ。ならば、帝国と妹を守る為に骨の髄まで絞──利用するのみ。貴様等が前線にて暴れるのならば、その舞台を僕が整えてやる。
 だがその代わり、貴様等にアミレスの視線はやらん。あれの視線は僕だけに向けられていればいいのだ。

「……お膳立てなど、柄ではないんだがな」

 掠れた記憶の中にある旋律を必死に思い起こし、奏でてゆく。転調し激しさを伴う音楽は、氷上の楼閣(アイシクル・マスカレード)の効果を増大させた。
 拡大しようとする宝石の脅威。それを僕が徹底的に抑え込んでやれば、我が妹に群がる獣共も戦い易かろう。
 妖精の奇跡力を削ぎ、戦場を奪取し、妖精女王を牽制し続ける。この三つの目的を果たす事が、この場における僕の使命と断じよう。

 ……──この僕の献身を無駄にしてくれるなよ、獣共。


 ♢♢


 実のところ。カイルが剣を持つ姿は、今日初めて見た。
 何せ彼には類稀なる魔法の才と、それを最大限活用する聡明な頭脳がある。それはよく理解していたし、彼が魔法ばかり使うものだから、カイルは魔導師なのだと思っていた。そう、決めつけていた。
 智勇兼備な男だとは思っていたが、まさかここまでとは。

「私の宝石が……?!」
「さっさと死ぬか、アイツから手を引くか。今すぐ選べよ宝石野郎」

 歯車が回るような無機質な音が聞こえたかと思えば、カイルの剣舞に合わせて宝石が消滅する。あの不気味な剣で斬られたものは、何であろうと消滅してしまうようだ。
 ゼースの雷でも、あそこまで容易く砕く事は叶わなかったのに。一体何なんだ、あの──直視するだけで背筋が凍るような、無機質な双剣は。

 ……しかし。何が『お前やフォーロイト兄妹程ではないけどな』──だ。お前の剣の腕は、どう見ても素人とは程遠いものだぞ。
 魔法の扱いは大陸でも類を見ず、剣の腕まで優れているときた。それをここまで隠し通してきたなんて。まったく……どこまでも狡い男だな、お前は。
 ──そんなひょうきんな男が。出し惜しみせず、ふざけたりもせず、本気で戦っている。
 ただ一人の女性(ひと)の為に。命を脅かされている、彼女の為に。自分自身も酷い顔色のなか、歯を食いしばって戦っているのだ。

 なあ、カイル。教えてくれ。
 お前にとって────彼女は、どういう存在なんだ?
 どうしてお前は、そこまでアミレスの為に尽くせるんだ? 恋や愛を忌避するお前を、一体何がそうも突き動かすんだ?
 本当は──……お前も、彼女を愛しているんじゃないのか?
 オレには分からないよ。それが愛でないのならば、何だって言うんだ。そんな狂気じみた執念を、愛以外の何だって言うつもりなんだ?

 オレが欲しいものを次から次へと手に入れていく男。オレでは越えられない壁の向こう側(・・・・)にはじめからいた男。もしも彼が、アミレスを愛している(欲している)と言うならば。
 もしその時が来てしまったら──……

「オレは、どんな選択をするんだろうか」

 他四名の動きに合わせてゼースを薙ぎつつ、ぽつりと零す。ふと、仮初の翼と光輪がより黒く染まった気がした。
 気の置けない友達と、最愛の女性(ひと)。オレはどちらを取るのか…………なんて。悩む余地などないのかもしれないな。
 もしも、オレが酷薄な選択をしたとして。
 その時アミレスは──オレを非道(ひど)い男だと、許さないでいてくれるだろうか。
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