だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

627,5.Interlude Story:Macbethta

「やはり凄いな、フォーロイト帝国の祭典は」

 ある晴天の日。西側諸国の誇る大国、フォーロイト帝国の建国祭が始まった。
 この祭りを体験するのは、これでもう何度目かになるが……相も変わらず活気に溢れていて、あまり社交的ではないオレは、少し気後れしてしまう。
 だが、大国の祭りというものは得がたい体験だ。これを参考に、祖国をより盛り立てられたらと思うのだが……やはり小国のオセロマイトでは、諸々の力がフォーロイト帝国に遠く及ばない。
 だが学びは続けようと、毎年欠かさず建国祭に参加しているのだ。

「──だと言うのに。何がどうして、お前と二人きりなのだろうか」
「え? 俺はすっげぇ楽しいけど?」
「カイルはいつでも楽しそうだな、本当に」
「実際楽しいからなァ〜〜」

 街中にある小洒落たサロン。そこのテラス席でオレは、随分と上機嫌なカイルと向かい合って座り、何故か二人で食事をしていた。
 周囲では凄まじい数の女性が、一定距離を保ち、オレ達を囲んで黄色い声をあげている。しかし女嫌いのカイルはこれを完全に無視。オレとて女性と関わるのは苦手なので、敢えて触れないようにしている。
 はてさて、どうしてこうなったのか。時は遡ること、数時間前……。


 ♢


「アミレスは不在なのか」
「えぇ。誠に不本意ながら、主君は皇太子殿下と共に仕事に向かわれましたよ」
「そ、そうなのか。仕事なら、仕方ないか」

 建国祭の開催式終了後、ケイリオル卿やオリベラウズ侯爵と外交に関する打ち合わせを行い、その後は暇が出来たので、アミレスに会いに東宮へと向かった。
 あわよくば共に祭りを回れたら、なんてオレの浅はかな魂胆を見透かされたのか……アミレスはフリードル殿と仕事に向かったとかで不在。
 その事で東宮の面々も殺気立っていて、とても、彼女の帰りを待ちたい──などとは言えない空気だった。
 王城に戻るか……と肩を落として帰路についていた時。空から、聞き慣れた声が聞こえてきたのだ。

「おっ! マクベスタじゃ〜〜んっ!!」

 見上げるとそこには、大きな翼を羽ばたかせて滞空し、底抜けに明るい笑顔でぶんぶんと手を振る友人の姿が。

「どうして当たり前のように空を飛んでいるんだろうか、あの男は……」

 彼が、いくつもの魔力を所持している世にも珍しい人間であることは、理解しているつもりなのだが……規格外すぎて理解が追いつかない。

「よっ、と。まさかこんなところで推しに会えるとは。俺ってば前世で徳を積──んではないな。ただ俺の運が良いだけか。そんなことよりマクベスタ! 今日もビジュ大爆発だな! 最高にかっこいいぜ!」
「ああ、うん。どうもありがとう。今日もお前は元気だな」

 降下して早々カイルは怒涛の語りを繰り出した。いつもの事だからもう慣れたものだが。

「道的に、もしかして東宮行った帰り? この後暇なら一緒に祭り行かん?」
「別に構わないが……」
「よっしゃあ! やりぃっっっ!」

 カイルが拳を突き上げる横を通り過ぎ、呆れの息を吐きつつ先を行くと、「ちょぉっと待ってくださいよぅ〜っ!」と言いながらカイルは追いかけてきた。
 暫く祭りを見物していたところいい具合に腹が空いてきたので、どこかで食事をしようと俺達は目についた店に入った。──というのが、事の経緯である。


 ♢


「……ああ、そうだ。お前に話しておきたいことがあったんだ」
「そんな風に改まっちゃって……カイルちゃんになんでも話してみなさいな」

 カトラリーを動かしつつ、世間話程度に口を切る。
 カイルのことだ。どうせ隠していてもいずれ嗅ぎつける。ならばさっさと明かしておいた方が、後が楽だろう。

「オレ、彼女に告白したよ」
「──────え?」

 時が止まったかのように、カイルは目を丸くして固まった。その手に持ったスプーンからはスープが流れ落ちていて。
 どうせ、この騒ぎならばオレ達の会話など周囲に聞こえない。だから今ここで彼への報告を済ませておこう。

「いっっっ、いつ!? どどどッ、どこで!?!?」
「先月。夕暮れ時に港町ルーシェの浜辺で」
「サンセット・オン・ダ・ビーチ!? いつの間にそんな最高シチュでの告白イベ敢行したんだよぉッ! やる前に『告白したいです』って教えろよ! そして見物させてくれよォッッッ!!」
「……想像通りというか、想像以上の喧しさだな」

 やたらとオレの恋路に興味を示す奇特な男のことだ。オレがアミレスに告白しただけで騒ぐだろう、とは予想していたが……まさかここまで大騒ぎされてしまうとはな。
 人の目も憚らず、頭を抱え、足をバタバタと暴れさせ、魔物のように唸る。カイルの奇行を眺めていると、公共の場でこのような話をすべきではなかった──と、早くも数分前の己を殴りたくなった。

「うぐぐぐぐぁあああああああ〜〜っ! 見たかった……ッ、推しカプの告白シチュとかそんなんなんぼあってもええですやん……! 俺はどうして推しカプの告白イベを見逃したんだ……ッッッ!!」

 何故本気で悔しがっているんだ? なんなんだこの男。ただただ恐怖を覚えるんだが。そんなにも出歯亀したかったのか……? 普通に趣味が悪いな……。

「くっそぉ…………………………──で、返事は? アイツはなんて?」
「返事はまだ貰っていない。告白したと言えど、あれはもはや……オレが好意を寄せていることを伝えただけだ。現在は、彼女を振り向かせる為の猶予期間のようなものだな」
「何その少女漫画的展開。俺まできゅんきゅんしちゃいそう」
「頼むから勝手にときめかないでくれ。オレが心を奪いたいのは彼女だけなんだ」
「すげぇ冷たいけど、そんな一途っぷりも解釈一致なのでオーケイです。寧ろどんとこい」
「……なんだこの男…………」
「声に出ちゃってるぞお、マクベスタくん」

 軽口を叩き合いながらも、アミレスへ告白した旨の報告を済ませる。もし、次があるならば──その時は、彼女との良縁を報告を出来れば、最幸であろう。
 ……なんて夢を見てしまう程。オレは、アミレスへの想いを抑えられなくなっている。

 少しでもオレを好きになってもらいたい。他の誰でもなく、オレを選んでほしい。こんな壊れかけの人間、オレなら絶対に選ばないと思うが……それでも彼女に選ばれたいと、そう願ってしまった。
 あの日──……アミレスの唇を奪ったあの時。己の奥底に秘めた彼女への溢れんばかりの想いと向き合い、この恋を諦められなくなってしまったんだ。
 だから、少しでも彼女の心を奪うべく……苦手なりにコツコツ努力を積み重ねようと、ほんの僅かでも東宮に顔を出す日々。

 今日だって、叶うならば共に祭りを見て回りたかったのだが……チャンスはまだまだある。気を落とさず、後日改めてアミレスを誘ってみよう。
 ……──『デート』に。
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