【大賞受賞】沈黙の護衛騎士と盲目の聖女
第二章 盲目の聖女
翌朝、ユリアナはわずかに朝日を感じて目を覚ますと、寝台の上に残されていた鈴がチリンと鳴った。手を伸ばして鈴に触れると、固い音が鳴る。
——あぁ、もう彼はいないのね。
男は何も告げずに部屋を出て行った。シーツには男の温もりも何も残っていない。ただ、鈴だけが置いてあるだけだった。
ユリアナはふぅ、と息を吐きながらお腹に手を当て、下腹部に残る異物感を確かめるようにそっと撫でた。身体は拭き清められているのか、べたつきは残っていなかった。
自分さえ何も言わなければ、当面は何も変わらないだろう。今すぐに『純潔を失った』ことがわかれば、神殿は相手である護衛騎士のレームを探すだろうが、それはレオナルドを追い込むことになる。
時が経ってから父に伝えれば、きっと上手に隠してくれるだろう。元々「レーム」という護衛騎士は存在しないのだから。そうすれば、神殿も諦めるに違いない。
——もう、私は聖女ではないのだから……。
ユリアナは最後に視た先見の映像を思い出した。精悍な顔つきをしたレオナルドが、後ろ姿の女性に満面の笑みを見せていた。
——こんなにも、幸せそうな顔をしている殿下を視ることができたのだから……