鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 色とりどりの竜に乗った部下らしき彼らが、キースとオデットの姿を見て興味津々の目を向けている。

 彼らはキースからは一定の距離を取っているのに対し、一番近くまで寄ってきた赤竜に乗っているのは黒い髪を持つ精悍な顔をした偉丈夫だ。

「キース……お前。この前のリカルドの事を、散々揶揄ってなかったか?」

「あー……まあ、それを言うな。アイザック。俺だって、仕事のついでに女の子の一人や二人連れ帰る事だってあるさ」

 軽口を叩いたキースに対し、アイザックと呼ばれた彼は顔を顰めた。

「そんな理由だと、部下に示しがつかないぞ。他でもないお前がそう指摘されかねない事をするなんて、本当に珍しいな……待て。その女の子、絶対に上流階級の出だろう」

 アイザックは、オデットが着ている高級なドレスに目を留めた。

 凝った刺繍が描かれた生地には細かな宝石が散りばめられていて、高価なことが一目でわかる美しいドレスだ。

 これは見目麗しいオデットを着飾らせようとする現在彼女の所有権を持っているある権力者の道楽だ。幾重にも生地が重ねられた重いドレスを着ていれば、どうしたって逃げる速度も遅くなる。

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