全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします

3.面倒な第二王子

「お嬢様、ここは……」

「サイラスについて来てもらったことはなかったかしら? 以前お兄様に連れてきてもらった、私おすすめのレストランよ。王族もよく利用しているところなの」

「こんな高そうなところ……」

 サイラスは門の前で固まっているが、構わず手を引いて店の中へ連れて行く。

 店に入ると、周りの視線がこちらに集中しているのがわかった。特に若い女の子たちは、気になって仕方ないというようにちらちらと横目でこちらを見ている。

 はじめは王子に婚約破棄された私がいるので注目されているのかと思ったが、耳をすましてみるとどうもそうではないらしい。

 女の子たちが小声で、「あの黒いコートの方は誰かしら?」、「すごい美形ね」なんて話しているのが聞こえてくる。思わず口元が緩んでしまう。

 そうでしょう? 私の執事はかっこいいでしょう? なんて、女の子たちのところに話かけに行ってしまいたい気分だった。

「お嬢様、どうかされましたか?」

「いいえ、なんでもないわ」

 サイラスに心配そうに声をかけられても、私はずっとにやにやしていた。


 店員に案内され、窓際の席に着く。サイラスは席についてからも、「ここまでしていただくわけにはいきません」と焦り顔で言っていた。けれど笑顔で黙殺する。

 私に引く気がないのを悟ったのか、サイラスも諦めたように口を噤んで、運ばれてきた料理に手をつけ始める。

「おいしい? サイラス」

「はい。とても」

 緊張しているようでサイラスの表情は硬かったけれど、時間が経つにつれしだいに表情が解れていくのがわかった。特に魚介のスープが気に入ったようで、口に入れた瞬間驚いたように目を瞬かせていた。

 やっとこちらから何かを渡せたわ、と満足してその顔を眺める。
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