全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします

7.お嬢様と私 サイラス視点①

 お嬢様が突然こちらを見てくれた。

 今までジャレッド王子に夢中で、ほかの人間なんてちっとも目に入らない様子だったお嬢様が。

 王宮でお嬢様が王子から婚約破棄されたと聞いたとき、彼女はどうなってしまうのだろうと不安になった。

 きっとひどく取り乱して落ち込んでいるだろう。そう思って慌てて探したのに、目に入ってきたのは満面の笑みを浮かべるお嬢様の姿だった。

「私、今度の人生ではあなたに恩返しするために生きることにするから!」

 お嬢様は曇りのない表情でそう言った。

 お嬢様はずっと、今回の人生だとか、やり直しだとか、不思議なことばかり話していた。それに、私に「恩返し」するなんてことも。

 返されるような恩があるとは思えない。
 むしろお嬢様に恩義を感じているのは、私のほうだ。


 最初にお嬢様に身の程知らずの想いを抱いたのは、まだ九歳の頃のこと。

 公爵家に雇い入れられて間もなかった当時の私は、仕事がうまくできずに怒られて、庭の隅で落ちこんでいた。

 私の家では割と大きめの洋服店を営んでいた。

 私には二つ上の兄がいて、両親の期待は全て兄のほうに向けられていた。

 同じ兄弟でありながら両親は兄が行うことには何でも興味を示すのに、私のほうには見向きもしない。

 物心ついた頃からずっとそうだったので不満を持ったことはないけれど、心の中はいつもぽっかり穴が空いたように空虚だった。
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