「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

第13話 城ヶ崎君視点「先輩、今日も可愛いですね♡」6

 野坂先輩にやっと好きだって言ってもらえた!
 先輩、僕のことが好きだって。
 あ〜、嬉しい。
 これでやっと先輩の彼氏になれるんだ。

 僕を少なからず好意的に想ってくれてるはずって、……気持ちは感じていたけれど、実際に伝えてもらえて嬉しい。
 すっごぉ〜く嬉しい。
 踊って空中に舞い上がってしまえそうなぐらいに嬉しい。

 ちゃんと「好き」って言葉に出してもらえたから通じ合ったから、なんとも言えない喜びが胸に広がる。
 先輩をぎゅうっと抱きしめて、僕は先輩のあたたかさを抱く。
 好きって言われた余韻に浸っていた。

「先輩と、やっと両思いだって確かめあえた」
「うん」
「今日から僕が先輩の彼氏ってことで良いですよね?」
「えっ?」
「『えっ?』って……」

 僕は一気にどん底に落ちた。
 困惑する。
 もしかして――。

「城ヶ崎君のこと好きだけど……。お付き合いは出来ない」
「な、な、なんでー! どこまで強情なんですか」
「だって……。お付き合いは出来ません」
「僕のこと好きなのに?」
「……好きなのに」
「良いですよ。長期戦で行きますから。良いでしょう、その頑なに交際を拒む氷の壁のような先輩の付き合いません病を溶かしてみせますから」
「ププッ。城ヶ崎君『付き合いません病』って」
「笑い事じゃないですよ。あの、僕真剣なんですよ?」

 僕は抱きしめていた先輩の体をゆっくり静かに離し、真っ直ぐに訴えるようにその綺麗に澄んだ瞳を見つめた。

「今夜は帰しませんからね」
「城ヶ崎君……」

 先輩の唇にそっと口づける。
 拒まないし、先輩の顔がとろんとしている。
 素直に受け入れるんだね。

「たとえば僕が他の女の子と付き合って結婚するとかなったら、野坂先輩はどう思います?」
「うーん。悲しいし、辛いだろうけど。頑張ってこらえる」
「……そんなことは絶対にないですけど。僕は先輩がそばにいるのに、先輩以外を好きにはなりません。だけど、ちょっとはそんなのイヤだとか言って欲しいんですけど」
「城ヶ崎君までいなくなったらイヤだなあと思うから付き合えないんだ」
「えっ、……そうですか。そうですか、僕がそばにいて欲しいとは思ってくれてるんですね」
「……うん。城ヶ崎君のそばにはいたいと思う。でも、城ヶ崎君に好きな子が出来てお付き合いするなら、諦める」
「諦めるとか、諦めないとか。もうそんなの言わないで」
「私、だいぶこじれてて面倒だよね。……ごめん」

 ああ、自信がないんだって分かる。
 先輩は中山の野郎に二股されて、すっかり自分に自信も恋愛で関係を進める気も失くしてしまっているんだ。

 僕じゃあ、安心させてあげられてないんだろうか。
 
「たとえばだよ。同棲するのはどう?」
「えっ……」
「僕とずっと一緒にいたら安心できると思うんだよね。浮気しないって分かってもらえると思う」

 先輩は頭を振った。
 うーん。
 早急すぎるのかな。

「先輩は僕を好きだけどカレカノにはなれないと?」
「うん……」
「僕は先輩を大事にしたい。彼氏ってちゃんとした立場で、中山さんとかちょっかいかけてくるヤツから守りたい」

 先輩を困らす気はないんだ。

「イチャイチャしたいのになあ。変にシリアスになってしまいましたね。じゃあ、いつでもその気になったら僕の彼女になってください。心の準備が出来たら……。それまで待ちます。僕の彼女ってポジションは先輩のためにあけてありますから」
「ずるいよね、私」
「ふふっ。ずるいですね、先輩は。そんなに可愛いから離れられません。僕は会社でもどこでも先輩のこと、好きな気持ちは隠しませんよ」
「城ヶ崎君……」
「先輩、僕にもっとドキドキして」

 ちゅっとキスをすると、先輩の驚いた顔がある。
 
「なんでびっくりしてんの?」
「……いつもより唇がもっと熱い……から」
「気持ちが通じ合ったからじゃない? ……気持ちいいでしょう?」
「うん……」

 どくんっと胸が鼓動を打つ。
 そんな素直に肯定する顔、なんつー可愛い顔してんですか、先輩。
 もう、何もかも考えずに抱いてしまいたくなるじゃないか。

「今夜はキスだけで止めておいてあげる。……でもこの先がしたくなったら、ちゃんと僕を彼氏にランクアップさせること! いい? 先輩」
「この先って、やだ、城ヶ崎君……」
「今夜はキスだけ、たくさんしてあげるよ」

 重ねる唇の、キスの回数だけ、とことん僕の本気を感じて欲しい。
 伝える想いはキスにこめてく。
 響かないなら、響くまで。

「城ヶ崎君、苦しっ……」

 激しくする気はなかったのに、抱きしめる力が強くなる。

「ごめん、先輩」

 互いの唇を軽く重ねたり、きゅっと喰《は》むようにしたり。
 口づけの音だけが部屋に響いていくと、先輩が一つ吐息をもらした。

「初めて恋した相手にこんな風にキスできる日が来るとは思いませんでした」
「城ヶ崎君……、どうしてそんなに私を好きでいてくれるの?」
「どうしてでしょう? まあたぶん、会った瞬間に惹かれたんでしょうかね。先輩の優しさにもっと好きになっていくんです」

 って、キメたつもりだったのに……。
 またしても――。

「きゅるるる〜」

 僕のお腹の虫が鳴った。
 どうしてこうもムードをぶち壊すタイミングで鳴るんだか。
 先輩がくすっと笑う。
 
「笑わないでくださいよ〜。まったく自分のことながら、なぜこの甘い雰囲気の時に邪魔をするのか疑問です」

 僕の腹減りメーター音は空気を読まないらしい。せっかく野坂先輩と盛り上がっているのにそれを毎度笑いに変えてしまうとはなんてことだ。問題じゃないか〜。

「ごめんごめん。笑うつもりはなかったの。城ヶ崎君に夢中で、晩御飯を食べてなかったの忘れてたもん。私が御飯作るから」

 えっ? 今、僕に夢中でって言った?
 先輩、言ったよね?
 僕は感動していた。

「ねえ、あと5分だけ……イチャイチャしよ、先輩」

 キッチンに行こうとする先輩を後ろから抱きしめる。
 僕の腕を振りほどかないのは、それは良いよってことですよね。

「も、もお〜。5分だけだよ? 城ヶ崎君」
「よっし、やった。嬉しいよ〜、先輩」

 再びのソファで、先輩とイチャイチャタイム。
 抱きしめるだけで過ごす、じっとする二人。
 ドキドキの心臓の鼓動のリズムが最高潮に高鳴ってる。

「こうして先輩と抱き合えるだけで幸せです」
「う……ん」

 熱っぽくて艶っぽい先輩の声に我慢が出来なくなりそうだ。
 先輩はまだ僕のものじゃないのに。 

「ちぇっ。今日も先輩と僕は付き合えないか。先輩〜。僕、先輩の魅力のせいでどんどん欲深くなってしまいます。キスだけじゃ満足できないなあ」
「……城ヶ崎君、えっと……」

 なんか言ってくれようとしてる。
 先輩は僕を慰めようって思ってくれてるんだろう。

「あの……。城ヶ崎君、もうすぐ誕生日だよね?」
「ああ、そっかあ。忘れてた」
「なにが欲しい?」
「……なんでもいいんですか」
「なんでもいいよ。……って、でも私があげられる範囲になっちゃうけど。ははっ」
「先輩」
「んっ?」
「先輩を僕にください」
「ふえっ!?」
「先輩のことが欲しいです」
「私のことが欲しいってどういう……」
「身も心もってことですよ」

 僕はずっと先輩を包み込むように抱きしめてる。
 野坂先輩の顔が見えなくとも返答に困っているのが分かる。
 耳が赤い。触れたら熱そう。
 僕はなんだか楽しんでいた。
 本気だけど、はぐらかされてもそれはちょっとダメかな〜とか言われてもいいって腹積もりだった。
 だって今日は好きって言ってもらえたから。

「付き合う時が来たら良いよ」
「はあぁっ!?」
「……今度の城ヶ崎君の誕生日には間に合わないと思うけれど」

 な、なんて大胆な!
 って、提案したのは僕ですが――。

「もしかして僕をからかってます?」
「……からかってない……つもりだけど」

 これはどう取ったらいいんだろう。
 もうひと押しなのかな?

「誕生日プレゼントに僕と付き合ってもらうってのは……」
「うーん……。お付き合いは……」

 ううっ、先輩の答えは歯切れが悪かった〜。
 このお願いにはブレずにノーのようだ。

「誕生日プレゼントは朝まで添い寝と先輩からのキスで良いです」 
「そんなことで良いの?」
「良いんです。先輩と一緒に過ごせるなら。最高の誕生日になりそうです」

 まあ、ほんとはお付き合いをする方向に誘導したかったんだけどさ。
 あーあ、恋人同士がやってることと変わりないのに。僕はまだ、先輩のただの後輩にすぎない仲だってのが虚しい。

「そういや社員旅行も近いですよね。先輩とはそれまでにもっともっと仲良くなっておきたいです」
「ああ、そっかあ、社員旅行があったね。今年はどこに行くのかな」
「旅行先の候補はたしか『北海道絶景と美味いものをとことん味わう旅、沖縄うみ体験旅行に箱根温泉満足巡り旅に京都魅惑の歴史探訪、九州美味しいものと歴史温泉景勝巡り』でしたよ。去年は金沢北陸旅でしたよね、楽しかったなあ」
「城ヶ崎君、よくそんなに細かく覚えてるね〜。感心感心」
「今田主任が幹事の一人でしたから。実はパンフレットの文言を手伝いで作ったのは僕です」
「あの本格的なパンフレットって城ヶ崎君が作ってたの?」
「野坂先輩は九州新支店起ち上げのプロジェクトで忙しかった時でしたからね。上手く出来たでしょって、つい自慢し忘れました」
「うん、旅行代理店にあるのみたいに凝ってたから、すごい出来栄えだったよ。それに分かりやすかった」
「ありがとう、先輩。褒めてもらえて嬉しい……。あれ、旅行先が投票制でしたけど先輩はどこに入れたんです?」
「沖縄に入れたんだ。どこまでも透き通る青い海と珊瑚礁って見てみたくて。それにすごく南国の島って憧れてるから」
「いつか、二人だけで行きたいですね」
「えっ――」

 僕は野坂先輩に口づけた。
 先輩の柔らかいマシュマロみたいな唇に、僕はあなたが好きだよって気持ちを込めながら。
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