「大好き♡先輩、お疲れ様です♡」溺愛💕隣りのわんこ系男子!

第27話 城ヶ崎君視点「先輩、今日も可愛いですね♡」12

 僕は見てしまったんだ――。

 その光景に、頭にも心にもガツンと衝撃を食らう。

 目の前の現実を突きつけられる。

(――あっ、野坂先輩が和久井さんと楽しげにお喋りしてる。……先輩が和久井さんに抱きしめられた!)

 僕は明らかに嫉妬にかられ、どーんと落ち込んでいた。
 野坂先輩の二人きりで喋ってる相手が普通の同僚とならここまで焦燥感はないと思う。
 先輩の会話の相手が男ってだけで少々のヤキモチはするかもだけど。

 いい雰囲気が感じ取れてしまい、怖気づく。  
 僕は二人に近寄れない。

 いつもならもっと先輩にぐっと迫れるのに……。
 ああ、そうか。
 今の僕は自分に自信がないんだ。
 野坂先輩が心を許してる男は僕だけだって、そう強く信じられる根拠がない。

 同期の香月《こうげつ》には『お前って余裕だな』みたいなこと言われたけど、そんなこと全然ない。
 彼女と上手くいって結婚する香月の幸せにあてられたのか、……羨ましくて野坂先輩とはなかなか発展させられない自分を卑下してる?

 人の輝いてる幸せを羨んだって、他人と自分を比較したってしようがないのにな……。



 旅館の廊下で野坂先輩の一人になったところを見つけて、壁ドンして僕は口づけを迫った。

「先輩、キスさせて?」

 半分は本気、半分は冗談めかせて。

 口説いたけど迫ったけど、きっと野坂先輩はこんな場所では良いって言わない。
 そんなの分かってて。

 でも可愛い先輩の姿を見ると、瞬間的に「わあ先輩だっ! 会えて嬉しい」「すごく好きだ!」って思う。
 好きが溢れてきてしまう。
 隠せないぐらいに。

 こういうとこが僕って周りには、大好きな人にぶんぶん尻尾を振る犬みたいに見えるんだろうなあ。

「駄目だよ、城ヶ崎君。……こ、こんなとこで良いわけないじゃない」

 か、可愛い〜。
 抱きしめてしまった。
 はあっ、腕のなかにすっぽりとおさまる野坂先輩の感触があたたかくて柔らかくて嬉しすぎてたまらん。

 可愛く恥じらう先輩の姿に一瞬嫉妬なんて忘れたのに。

「実は見かけましたよ。和久井さん、真剣でしたね。ほんとは邪魔しようかと僕は思いました」
「城ヶ崎君、怒ってる?」
「怒ってなんかないです。……ただ」
「ただ?」

 野坂先輩のことを思わずぎゅっとさらに抱きしめてしまう。

「和久井さんが先輩を抱き寄せたから。……僕はすごく嫉妬しました。先輩が嫌がるなら止めさせようと思ったんですけどね」
「わ、私は和久井さんの気持ちには応えられないって返事したの」
「……本当ですか?」
「野坂先輩と和久井さんが楽しそうに見えたから……。ショックでその場から離れちゃいました」
「私っ! 和久井さんとは……」
「先輩、親しげでしたね。僕といるより楽しいんでしょ?」

 つい意地悪く言っちゃった。
 僕はむくれてしまう。
 かまってもらえない番犬の気分だ。
 だって野坂先輩はモテすぎる。
 僕を選んでくれるって都合が良い考えを持ってた。
 人を好きな気持ちって些細なことでいくらだってひっくり返る。

 好きだって言ってくれた先輩の気持ち待つって決めたくせに僕はなんてちっちゃな男、心が狭い男なんだ。

 頭を冷やさなきゃって。
 旅行先で大好きな先輩と過ごせるのに嫉妬に包まれて台無しになんかしたくない。

 僕は先輩を好きすぎて。
 野坂先輩が他の男を見てるのがモヤモヤして。
 僕は……先輩が好きだ。
 再確認させられる。
 好きで仕方がない……だからこそ不機嫌な態度になるってなんでだ、そんなのイヤだ。

 楽しくデートして、先輩に喜んでもらいたいじゃんか。

「僕、気持ちを切り替えるから」
「あっ……」

 先輩に見られたくない、ヤキモチで余裕なんかない僕を。
 僕は先輩と旅館の庭園で甘い時間を過ごしたかった。

 でも刺々した態度になりそうだったから頭を冷やしたくてつい、先輩を置いて離れようとした。

「城ヶ崎君、行かないでっ」
「えっ――?」

 僕は先輩に……僕は先輩に背中から抱き着かれた。
 こんな風に抱き着かれるのは、初めてだった。

 先輩から求めるように切実に抱きしめてもらえるだなんて、僕は彼女に寂しい思いをさせたんだ。

 愛しい……、そう思う。

「城ヶ崎君、私……」
「うん……」
「私ね」
「うん」
「城ヶ崎君が好き」

 背中に先輩の息が当たる。
 熱を感じる。
 やばい、先輩とちゃんと向き合いたい。

 背中じゅうに先輩からのぬくもりと甘い切なさが広がる。

「……先輩っ」
「あっ……」

 僕を掴む先輩の腕をすっと解《ほど》いて。
 先輩をくるりと方向を変えさせた。しっかりと視線を捉えて、僕は先輩の両肩をなるったけ優しく掴んだ。
 野坂先輩の真っ赤に染まった顔、涙をためて潤んだ瞳が僕を見てる。
 先輩の顔が可愛くって胸が切なくうずいた。

「城ヶ崎君が好き……なの」
「うん、知ってる。ごめんね、不安にさせた?」

 きっとあんな態度をとった僕を見るのが初めてで先輩は戸惑ったんだ。
 僕が悪い。
 全面的に悪い。
 不安になんかさせたくない。
 先輩にはいつでも笑っていてほしい。

「……うん。あのね」
「うん。大丈夫だよ、先輩。僕は先輩を大好きな気持ち変わらないから。何があったって」
「城ヶ崎君、私! 呆れられたかと思った、嫌われちゃったんじゃないかって……」
「先輩……僕が先輩を嫌いになんかなるわけないじゃないですか。こんなに大好きなのに」

 先輩の肩が震えてる。

「離れないで。城ヶ崎君と私……離れたくないの」

 僕は先輩を抱きしめてから、今度こそ口づけた。
 さっき我慢した分、抑えが利かない。

 先輩から「んっ……」って吐息が漏れるたびに胸がきゅんっとして、気持ちが増していく。
 ぴりぴりと甘く痛む、胸の奥が疼く。

「城ヶ崎君、好き」
「僕も。僕だって先輩を好きです。どうしようもないぐらい、野坂茜音さんを大好きです」
「城ヶ崎君」

 ――止《と》められない。

 もう想いは止まらない。
 お互いを確かめるように止められないキス……。
 気持ちも、存在も。
 ここにある、二人はここにいる。
 溢れ出す想いに、僕は先輩に気持ちをぶつけるかのように精いっぱい愛しいをキスに込めた。

「城ヶ崎君……まっ、待って」
「先輩?」
「……激しい。う、嬉しいけど……あの」
「うん?」
「城ヶ崎君に話したかったの。言いたいことがあるの」

 僕は先輩のいじらしいぐらいに照れた顔に、ぞっこんでタジタジだ。
 思わずまた抱きしめてしまう。

「うっ、苦しい」
「ごめんごめん、先輩とのチューが盛り上がったから、つい嬉しくなっちゃって」
「そ、そういうの口に出されると恥ずかしい」
「プッ……はははっ。確かに恥ずかしいかも。で、なあに? 先輩。僕聞くよ、ちゃんと」
「あのっ! ……あのですね」

 なんだろうか。
 あらたまった雰囲気を感じる。

「待たせてごめんね」
「んっ? なにを?」

 僕は間《ま》が抜けてて、本気《まじ》で「なにを?」って思った。

「城ヶ崎君」
「はい」
「城ヶ崎君」
「はい?」
「あのね、あの〜」

 腕のなかの野坂先輩がモジモジとしてる。
 僕は上から先輩の顔をのぞきこむようにする。

「先輩の顔が見たい。顔を見せて」
「やだ。恥ずかしいから」
「ちゃんと顔が見たいから。ねえ、野坂先輩。先輩の瞳《め》を見たい。今、どんな顔してるの?」

 先輩は顔を僕の胸に埋《うずめ》てしまう。
 抱きしめてる先輩の体が熱い。

「顔は見せられないです」
「ふふっ……、恥ずかしいんだあ、先輩」
「うん」
「そっか。ふふっ……」
「城ヶ崎君、からかってる?」
「からかってなんかいませ〜ん。じゃあね、そのままで良いよ。で、先輩の僕に言いたいことってなんですか?」

 数秒の沈黙――。
 先輩の表情は見えない。
 見えないけど僕には困って照れてる先輩の顔が見えるようだった。

 幸せ――だ。
 特別なことがなくても特別な関係じゃなくとも、間違いなく僕は今幸せだ。
 こうして野坂先輩とぴったりくっついて抱きしめてる。

「城ヶ崎君……、あのね」
「うん」
「お待たせしました」
「んっ?」

 大事なことを言われる気がした。

「あの〜、え〜っと。私……城ヶ崎君のことが好きなので」
「うんっ。ありがとう、僕もだよ先輩」
「で、ですね〜」
「どうしたの、先輩? ふふっ、そんなにもじもじして。……可愛い」
「可愛いって……。そんな照れちゃう」
「何か言いづらいこと?」
「……って欲しいの」
「んっ? ごめん、先輩。声が小さすぎて聴こえなかった。もう一回言って」

 なんかとてつもなく大事で聞き逃しちゃならないようなことを今、先輩から告げられた気がする!

「ねぇ、先輩?」
「だ、だからっ、私は城ヶ崎君が好きなので、……あのっ、もしも城ヶ崎君の気持ちが変わらずいてくれてるなら、お付き合いして欲しいの」
「ええっ?」

 先輩の上目遣いの瞳が僕を見てとらえて離さない。
 その奥の美しい光に惹き込まれる。

「城ヶ崎君……だめ?」
「ええっ? ええ――っ!? そ、そそそれって誰と誰がですか?」
「だ、誰と誰って。……私と城ヶ崎君」
「僕と先輩?」
「そう。城ヶ崎君と私」
「本気《マジ》ですか?」
「本気《マジ》です」

 頭が真っ白になった!
 直後に頭の中で花火でも打ち上がったみたいな高揚感が湧き起こった。

「ううっ、やばっ。泣きそう……感動しすぎて」
「城ヶ崎君……?」
「やばい、僕マジで泣きそうです」
「それってオッケーってことなのかな……、城ヶ崎君は?」
「決まってるじゃないですかっ、茜音さんっ」
「城ヶ崎君……」

 ヘナヘナと野坂先輩の体から力が抜ける。
 僕は慌てて支えて先輩を抱き直す。

「ふえっ……。嬉しすぎて私も泣きそう」
「泣かないで。……ああ、困ったな。笑って先輩」

 僕は先輩の目尻から溜まってあふれ出した涙のしずくを指で掬う。

「ありがとう、先輩。すっげえ嬉しいっ」
「城ヶ崎君……いいの? 私なんかで」
「いいに決まってます! 僕は先輩がいいんです」
「……良かったあ。私、断られたらどうしようかと」
「あっ先輩、そうだ。僕が前にも『私なんかって言うの禁止です』って言ったよね? 先輩はすっごく素敵なんだからなんかって言っちゃ駄目だからね」
「うん……分かった。ありがとう」

 天にも昇る気持ちってやつなのか、ぽわ〜っとしてる。

 先輩が僕を好きって言って。
 野坂先輩が僕を好きって言ってくれて、とうとうお付き合いしたいと……告げてくれた!

 舞い上がる、気持ち。
 やばい、めちゃくちゃ嬉しい!

「先輩、襲いたいんですけど」
「ふぇっ? ……えっと」
「先輩をこれから、今すぐにでも襲いたいです」

 先輩の耳元で囁くとくすぐったそうに笑い声がしてから、照れを含んだちょっと怒った声がする。

「だ、だめに決まってるじゃない、城ヶ崎君。こ、こんな時間に……それにもうすぐ出発の時間だから。部屋に戻らなくっちゃ。ねっ、城ヶ崎君」
「先輩のちょっと怒ってる顔も可愛い」
「城ヶ崎君」

 抱きしめる僕の胸を押して、野坂先輩が離れようとする。

「やだ、離れたくないなあ」
「……もぉ、城ヶ崎君ってば甘えん坊だな」
「先輩の……、茜音さんの前だけですよ。茜音さんは今日から僕の彼女ですね」
「うっ、うん。なんか照れるね」
「くう〜、可愛いっ」

 先輩の桜色に染まった頬、はにかんで笑った顔がとてつもなく可愛いっ!

「先輩、僕のこと好き?」
「……好きだから」
「うん、ありがとう。僕も大好き、先輩」
「だからね。逃げ出せないもの……城ヶ崎君の想いからは」

 僕がじっと見つめると先輩は恥ずかしいのか逸らす視線。
 くう〜っ、そんなとこも、先輩めっちゃ可愛いですね。

 僕は浮かれてたんだ。
 こんな素敵なことが起きて。

 ただ今は浸っていたかった。
 気持ちが通ってぎゅっと結ばれた最高の日、僕は浮かれていたんだ。

 先輩がやっと僕の気持ちを受け入れてくれた。
 両想いだとは分かっていたけど、野坂先輩と僕は正式にお付き合い開始だ!
 嬉しくて、すっげえ嬉しくって!
 今日は最高!

「二人にとって忘れられない記念日にしましょうね」
「私と城ヶ崎君、二人の付き合い始め記念日?」
「はい、付き合い始め記念日です。カレカノとして初のデートかあ。鎌倉デート楽しみです」
「カレカノ……、城ヶ崎君と恋人同士……、嘘みたい」
「はあ〜っ、感慨深いですよね。たしかに嘘みたいです。僕の夢オチとかじゃないですよね? これって現実? 先輩は本物?」
「ウフフッ。城ヶ崎君、夢オチって……。私は本物だよ」

 僕は、僕の腕から逃げ出して部屋に戻ろうとする先輩を後ろから抱きしめた。

「先輩〜。……茜音さん。茜音さんも二人の時は悠太って呼んでくださいね」
「時間がなくなっちゃう。あとで会えるから」
「一日中二人っきりでイチャイチャしたいです」
「これから二人で過ごせる時間はたっぷりあるよ」
「僕が先輩を独り占めだ。先輩は僕の彼女だから」
「はいはい。そうです、分かってま〜す」
「はぐらかさないで。軽くあしらわないでくださいよ〜。先輩は僕の可愛い彼女ですからね」
「はいはい、もう部屋に戻りますよ〜。城ヶ崎君」
「他の男にときめいたりドキドキしちゃ駄目だからね、茜音さん」
「うん、分かったから」

 僕は幸せ気分で頭の中は花満開だった。
 ラブラブバカップルを目指したいなんて思ってる。

 ずっと先輩に触れていたい。
 手を繋いでいたい。
 抱きしめて求めて、抱きしめあっていたい。

「――茜音さん……」

 愛おしいって感情が湧き上がって止まらない。
 じっと先輩をすぐそばで見つめていたい。
 部屋に戻る先輩の背中が扉の向こうに消えると、切なくて寂しかった。
 すぐに会えるっていうのに、離れるのが切ないです。


 僕はこれまでの人生で一番浮かれていたんだ。

 ――ある出来事が待ち受けていることなんか知らずに。

 そう、僕たちはまだ知らない。

 僕はひたすら先輩とイチャイチャ甘々に過ごそうと思ってた。

 ――だけど。

 僕と野坂先輩とのあいだに試練が訪れることなんか知らずに、僕はやっと恋人同士になれた喜びで満たされていたんだ。
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