番犬として飼った彼は、オオカミでした
第四話






○学校玄関付近(朝)


爽太先輩が背後にいる事に気付かずに、玲央が番犬だと声に出して言ってしまった。動揺して心臓がドクドクと波打つ。


爽太「えっと、幼馴染くんが番犬になったって・・・、どういう事?」

いつも見せる柔らかい表情とは違って、少し怒っているようにも見える表情だった。

真央(・・・どうしよう。全部聞かれてた。)


私は頭の中で返す言葉を探してみるが、見つからなかった。なんて返せばいいか分からずに、黙り込んでしまう。


気まずい沈黙を破ったのは玲央だった。


玲央「昨日、真央のお母さんに頼まれて、番犬の散歩したよ。って言ったんすよ?」

爽太「あぁ、そうだったんだ・・・?なんだ、てっきり・・・」

玲央「お弁当箱は、真央が忘れて家を出ちゃったから渡してって。たまたま会った真央のお母さんに渡されたんすよ」


私のお母さんは海外にいるから、会うはずがない。
彼は平気な顔で嘘を吐く。その表情は嘘をつく罪悪感など、微塵も見せないので、疑う人はいない。

 
真央(また、適当に嘘ついてる・・・。まあ、今回の嘘は助かるけど)

爽太先輩は、考えているような顔をして、玲央の嘘を信じたのかどうかは表情では読み取れなかった。

爽太「じゃあ、真央ちゃん、メールするね」

真央「は、はい」

三年が使う校舎へと向かっていく爽太先輩の背中を見つめた。


玲央「先輩にバレて、一緒に住めなくなるのは、困るからな」

私の背後にピッタリとくっついて、私にだけしか聞こえない声で耳元で囁いた。彼の吐息を感じて思わず耳元を手で抑える。

フッと鼻で笑った彼は、登校してきた生徒たちの群れの中に紛れて消えていく。

真央(な、なんなの・・・)

耳元には玲央の吐息の余韻が残り、赤く染まったままだった。



○教室(お昼休み・お昼ご飯)



真央「はあ」

大きなため息が自然と出る。

友達・(かえで)「どうしたの?朝からため息ばっかりついてない?」

真央「そんなに、ため息ばっかりついてた?」

楓「うん」

同じクラスの1番の親友、一ノ瀬 楓(いちのせ かえで)と、教室でお昼ご飯のお弁当を食べていた。自分でも無意識のうちに溜息をたくさんついていたらしい・・・。

昨日からの慣れない環境と、玲央と同居していることが爽太先輩にバレないかと不安感で、心が疲れていた。自然と溜息も出てしまう。


楓「今日の真央のお弁当、色とりどりで美味しそう。いつもは茶色の冷凍食品ばっかりだったじゃん?」

真央「あぁ、・・・うん」


真央(お母さんは料理下手だったから、冷食ばっかりだったんだよね)

真央(確かにこのお弁当、色鮮やかで可愛い。玲央が料理出来るなんて・・・、お父さんと2人暮らしだから料理得意なのかな?ってか、このお弁当は、いつ作ったんだろ?朝は時間なかったし・・・)


玲央「真央がぐーすか、いびきかいて寝てる夜におかず作って、朝詰めたんだよ」

どこからともなく現れた玲央がお弁当箱を覗き込んでいる。私の心を読んだかのような、返答だったので驚いて玲央を凝視する。

真央(心を読めるのか・・・?)

楓「えっ、このお弁当玲央君が作ったの?」

玲央「真央のために作った〜」

真央「ちょっと・・・!」

楓「キャー、玲央君と真央はついに・・・?」

真央「そんなはずないでしょ。私は、爽太先輩と付き合ってるんだから・・・」

楓「玲央君は?真央と爽太先輩が付き合っちゃって、火がついた感じ?」

玲央「んー。どうだろうね?・・・そろそろ返してもらおうかな?」

真央「それって・・・、どういう・・・」

玲央「人のものは返さなきゃね?」

そう言って悪戯に笑った。

楓「楓は玲央君を、応援するよ!2人はいつ、くっつくんだろうって思ってたし」

玲央「ほんと?応援してて〜。俺、頑張るわ」

甘ったるい喋り方で話す彼に、楓は「キャーキャー」と一人で盛り上がっている。


楓「真央、玲央君は学年1位の秀才、そして顔もイケメン、カッコ良い!そんな人に、こんなに好かれてて最高じゃん」

真央「はあ?何言ってるの?玲央が私を好きなわけないじゃん?」

楓「えっ?真央気付いてなかったの?」

真央「えっ、なにが?」


数秒の無言続く。

真央(えっ?なになに?玲央が私のことを好き?
・・・そんなことあるわけない)

玲央と楓は顔を見合わせて首を横に振って、頷き合っている。

玲央「・・・——これから、覚悟しとけよ?容赦しないから」


真央「覚悟って・・・??」

玲央「今日は、ご飯なに食べたい?買い出しして帰ろ」

真央「今日は爽太先輩と一緒に帰るから・・・」


私の言葉を聞いた爽太の顔色が変わった。険しい目つきになる。


玲央「だーめ。今日は俺と」

真央「無理だよ。先輩優先に決まってるでしょ?」

玲央「そうなの?じゃあ、爽太先輩に、俺が番犬になったこと教えてくるわ」

真央「———待って!」

歩き出そうとする玲央の腕を掴んで制止する。

真央(ずるい。・・・ずるい!)


真央「・・・・・・・・・・・・カレーにしましょう」

玲央「おっけー。放課後、買い出しして帰ろ♬」


ニヤリと微笑む彼に、睨みをきかせる。凄い剣幕で睨む私を横目で確認するも、気にするそぶりを微塵も見せずに嬉しそうに笑っていた。



番犬として飼ったはずなのに、
———主導権を完全に握られています。

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