エリート警視正の溺愛包囲網〜クールな彼の甘やかな激情〜
一章 はじまりの訪れ

一 春の終わりの憂鬱

日中の気温は夏を思わせる日だった、五月某日。


ネイリストとしてネイルサロンで働く咲良は、六階建てのビルの四階に店舗を構える『Mahalo(マハロ)』を後にし、自転車で帰路に就いた。


胸の下まで伸びたダークブラウンの髪が風になびく。仕事中にはだいたいひとつに纏めているせいで、天然パーマに加えて結んでいた跡がついているが、自転車に乗っているおかげで誰にも気づかれないだろう。


一五五センチのやや小柄な身体で夜風を受けながら、そろそろ上着はいらないかもしれない……と考える。

(でも、まだ寒い日もあるかな)


自転車通勤のため、薄手のパーカーやカーディガン程度ならさほど荷物にはならない。それならば、備えあれば憂いなしだろうか。


その悩みは、途中で立ち寄ったスーパーの室温が低かったことであっさり解決し、もうしばらく上着は持っていこうと決めた。


アプリでチェックしていた広告を参考にカゴに食材を入れていき、お気に入りのフルーツヨーグルトも放り込む。会計を済ませると再び自転車に乗り、周囲を気にしながらもペダルを漕いだ。


五分もせずして見えた三階建てのアパートの自転車置き場に、ブラウンとホワイトのバイカラーの自転車を止めた。


エントランスのドアに鍵を差し込んで開錠し、背後を確かめるように振り返る。誰もいないことを確認して片開きのドアを開け、足早に二階へと続く階段を上がっていった。

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