エリート警視正の溺愛包囲網〜クールな彼の甘やかな激情〜【2024/3/31にお取り下げ】
二章 羽化する心

一 初めての感覚

残暑厳しい九月上旬。


咲良は穏やかな日々を送っていた。シフト通りに出勤し、休日には実家に帰ったり趣味に没頭したりと、実に充実している。


川辺はあの日以降、咲良の前に姿を見せなくなった。さりげなく同僚に聞いた話では、あのときのメンバーとはもう誰も繋がっていないようだ。
断言はできないが、彼のあの様子を見るにもう咲良には近づかないだろう。


念のために通勤ルートを変え、雨の日も自転車で往復してみたが、この二週間まったく姿を見ていない。川辺は有名企業に勤めているため、桜輔の警告が響いたのだろう。


最初は家でひとりになることが心細くてたまらなかった。けれど、桜輔が頻繁に連絡をくれるおかげで、それも日に日に落ち着いてきている。


彼は、あの翌日に家まで様子を見に来てくれ、以降も毎日のように電話をくれている。通話時間は二分ほどのことが多いが、咲良にとっては本当に心強かった。


頼ってばかりはいられないと思うが、そのおかげで普通に過ごせている。
ただ、そろそろしっかりと大丈夫であることを伝えた方がいいだろう。


このままだと、桜輔はずっと咲良を気にかけるに違いない。もちろんありがたいが、それと同じくらい彼に対して申し訳なさがあった。


咲良はそんなことを考えつつ、沸いたばかりのお風呂にバスソルトを入れた。
ルームウェアを用意して脱衣所に向かうさなか、インターホンが鳴る。モニターを確認すると、そこには桜輔の姿が映っていた。

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