クズとブスの恋愛事情。
ドキドキ女子トーク、ついでに男子トーク。
陽毬にとって、これまでにない夢のような社交界でのひととき。
あれから、両親は何故か陽毬に気持ち悪いほど優しくなった。
理由があからさまなだけに、陽毬は実の両親ながらこの手のひら返しはショックだったし気色悪く思えて仕方なかった。
今の今まで、自分の娘である陽毬の事を“ゴブリン”と罵り嘲笑い罵り邪険な扱いばかりしてきたというのに。
社交界でのミキとの一件があってから、急にコロッと態度を変えてきたのだった。
気持ち悪いが、虐められるよりはだいぶマシだと陽毬は以前とは比べ物にならないくらい普通の暮らしをしていた。
これも、ミキ君のおかげだと感謝しながら。
それから、学校へ行くとまたも劇的変化があり陽毬は衝撃を受けた。
あの我が儘傲慢女王様のフジが、陽毬やミキ、ショウ、桔梗、風雷に、今までの事を深く謝罪してきたのである。
海外にいる、ショウや桔梗、風雷にはわざわざアポイントを取り許可を取ったうえで、わざわざ海外にまで足を運び謝罪したというのだ。
そこから、フジはケバケバ化粧にド派手なファッションから
ナチュラルメイクに、自分に合ったシンプルかつ清楚なファッションを好むようになっていた。
そして、驚く事に性格や内面まで劇的変化をして
我が儘傲慢女王様から
高潔でありながら周りへの配慮様な思いやりも忘れない慈愛溢れる美の女神様
へと変貌を遂げたのだった。
この短い期間に何があったのか分からないが、本当にフジは変わった。とても、いい方向にだ。
それから、フジとショウ、陽毬は一気に距離を縮め、今では桔梗も不機嫌になるほど3人は大の仲良しになり大親友にまでなっていた。
そこで、陽毬は男子がいる所ではできない相談が頭の中にチラつき
桔梗と風雷が世界一と謳われる大学院を首席で卒業して、ショウと共に帰国する報告を受けていた時に
中学校入学前の約一ヵ月ほどの春休みの間に、女の子にしか相談できない事があると話を持ち掛け
ショウの時差ボケや疲れを考慮して
一週間後に、フジの家で女子だけのお泊まり会をする事が決定したのだった。
それには、桔梗は大反対で
ペットの大樹改め“アルス”は
「あんまり、ショウを独占ばかりしてるとショウに嫌われちゃうんじゃない?
たまには、ショウもお友達と一緒に女子トークしたいと思うよ。」
と、イライラする桔梗を宥めようとすると、いきなりアルスをギロッと睨み付けてきて
「…そんな事言って、テメーはショウのペットという立場を利用して一緒に泊まりに行くんだろ!?」
「…それは仕方ないよ。ショウは、みんなにペットができたって自慢したいみたいだしさ。それに、ショウの安全を考えたら俺を連れて行った方がいいと思うよ?」
「ハッ!いいこと思いついたぜ!クフフ…!」
「……ちょっと、嫌な予感しかないんだけど!変な事、考えないでよ?」
「うるせー!このドスケベ犯罪者が!」
「……うわっ!??
ショウが居ないだけで(ショウは今現在トイレに行っている)、こんなに人が変わるなんて詐欺としか思えない。
俺がドスケベの犯罪者なら、君はドスケベのドM変態ストーカーだよね!
さすが、M級(マスターきゅう)魔道士の称号を得てるだけあるよ。」
「……ハ?MとMを掛け合わせて、上手いこと言ったつもりかよ?
うっわ!寒っ!寒すぎて、サブイボが出てきたぜ。」
結局、二人は口喧嘩を始め
ショウがトイレから戻ってきた時、桔梗はコロリと態度や雰囲気が変わり
ショウがお泊まりする事への“ある提案”をしたのだが、ショウの忠実なペットであり、機転のきくアルスは、桔梗の両親に桔梗の事をチクった為
結局、桔梗の願いも虚しく
桔梗を残して、ショウは女子のお泊まり会へ参加する事が決定した。フジや陽毬の猛反対もあった為だ。
“桔梗君が来ちゃったら、女子会じゃなくなっちゃうじゃない!何の為の女子会だと思ってるの?”
なんて、フジに怒られその度に“ごめんね?”と、ショウに宥められ…
ようやく、渋々といった感じに納得してないけど納得するフリをした。
その様子を見てアルスは
…あ、これ
桔梗は絶対何かやらかす
と、直感していた。
ショウが側に居ないイライラが収まらなくて、その矛先が誰かに向かわなければいいけど…
なんて、心配が絶えなかった。
桔梗の両親も、それを心底心配していてどうしたらいいものやらと頭を抱えていた。
同時に、ほぼ四六時中ショウから離れない桔梗から、一時的にでも解放されるショウの事を思えば
こんな事でもなければ、ショウは少しの自由もないだろうと考え
たかが一泊二日であるが、ショウと桔梗を引き剥がす時間を設けたいと実行したのだった。
さてはて、ショウから離れれば途端に大魔王と化す桔梗が、大人しくしてくれればいいのだが…
憂さ晴らしに妙な動きをしそうで怖いと、ショウがお泊まり会に行ってる間
優秀な部下数名に、桔梗を見張るよう命じたにだった。
…何事もなく、無事にショウのお泊まり会が成功する事を祈るしかない。
そんな事もありつつ、ショウをフジの家まで送った桔梗はショウに
困り事や、帰りたくなったり寂しくなったら直ぐに連絡する事などなど、心配そうに注意を促し
フジと陽毬に、“ショウをよろしく”と丁寧に頭を下げて、ワープで家に帰って行った。来る時は、なるべく一緒に居たいが為に車で来たくせに。
そんな桔梗の姿に、みんなちょっと可哀想かも…と、絆されるも。
いよいよ、女子のお泊まり会が始まる。
桔梗が帰った後
さっそく、ショウの横に浮かんでいる小動物の話題になった。
「ずっと、気になっておりましたが、その子がショウちゃんの新しくできた家族の“ペット”でありますな?
…しかし、この様な動物見た事も聞いた事もありませぬぞ!?」
と、驚きを隠せない陽毬は、マジマジとアルスを観察する様に見ていた。
「こんなに愛らしいのに神々しい動物は知らないわ。神聖で美しくもあるなんて…!名前はなんて言うのかしら?」
フジも、かなり驚き空中に浮かんでいる神聖なる美しくも愛らしい小動物に釘付けである。
「この子は、“アルス”って名前だよ。」
と、少し自慢気にペットの自己紹介をするショウに、アルスは嬉しいやら恥ずかしいやらで何だかこそばゆい気持ちになっていた。
そして陽毬に対して後ろめたい気持ちもあり、複雑な気持ちでここに居る。
そこは、自業自得なので仕方ない。
アルスと呼ばれる小動物は
大きさは、30cmほどあり
キタキツネとドラゴンを掛け合わせたような不思議な様子をしている。
総合的に見てキタキツネを連想させる…が、やはり違う。
短毛の毛は、まるで流れる本物の水のようで
大きな三角の耳とフサフサの尻尾は、草や葉っぱを連想させる。
首や手足首、耳や尻尾の付け根にはドラゴンのような鱗がついている。
鱗の色は、耳はペリドット、手足首は琥珀、尻尾はラピスラズリとまるで宝石のようにキラキラ輝いている。
背中には、大きさの異なる10個の羽があり上から葉っぱ、枝、木、草やツル、湖を連想させるようだ。
全体的の色合いは、緑、茶、青とグラデーションになっている。
切れ長の目も、長いまつ毛さえも同じような色のグラデーションカラー。
とても形容し難いが、言える事は
神々しくも愛らしい
だった。
そんな、珍しくも美しいペットに懐かれているショウがとても羨ましい。
先程から、少し暇ができればショウのほっぺにスリスリと頬擦りしたり、鼻チュウしたりして
空中に止まって大人しくしている時も、ショウの顔や肩、腕などどこかかしらに、自分の尻尾や羽を巻き付けている。
この行動を可愛いと思わない方がおかしい。
本当に美しくもキュートなアルスだ。
聞けば、アルスは性別のない珍しい動物らしく
親や兄弟、仲間達とは全く似ても似つかない姿で生まれた為に、親や仲間に異色だと捨てられてしまったらしい。突然変異というやつであろう。
それだけでも捨てられ要因があったというのに。
更には雄でも雌でもない。性別のない繁殖機能を持たない子孫も残せない出来損ないと判断されもしたのだろう。
それを、たまたまショウと桔梗が見つけ保護し宝来家で家族会議した結果
ショウにとても懐いていたので、ショウのペットとなる事になり
宝来家の家族の一員になったそうだ。
アルスに、そんな辛い過去があったなんてとフジや陽毬は大号泣だ。
それを見てショウは
“ウソついて、ごめんね?”
と、心の中で二人に謝罪した。
二人にウソつくなんて…と、心は痛むものの
本当の事を言えば
フジと陽毬は大混乱するだろうし、もしかしからショウが大嘘つきだと嫌われてしまうかもしれない。
もし、本当の事だと信じてもらえたとしても、アルスの人間性を疑われ
人間関係も崩すような、大変な自体を招く恐れがある為どうしても言えない事なのだ。
だから、家族会議でアルスの生い立ちについて、ほぼ家族全員で徹底的に考え設定した内容である。
しかし、神秘的なのに愛くるしくて、アルスとどうしても仲良くなりたいフジと陽毬だったが
懸命にアルスの名前を呼び、近づこうとするも二人を警戒しているのか
アルスは直ぐに、ショウの後ろに隠れるか二人の手が届かない上空へ飛んで行ってしまうかで、残念ながらアルスは主人以外には懐いてくれなさそうだ。
……残念。
だけど、触れる事はできなくても、この神秘的で愛らしいアルスの姿を遠くから見て愛でるだけで癒される。
まるで、アルスからマイナスイオンでも出ているかのようだ。
「…少し気になってるのだけど、アルスちゃんの首や手首、耳、シッポの付け根にある鱗なのかしら?
とても固そうだけど、アルスちゃん自身の柔らかい皮膚に刺さったりしないの?大丈夫なの?」
と、アルスに生えている鱗の様な皮膚は見るだけなら宝石の様に美しいのだが、とても固そうでひし形の形私していて皮膚に突き刺さりそうで想像するだけで痛々しく思えてしまう。
「…え?…あ!大丈夫だよ。アルスのコレね(鱗っぽい)、普段はフニャフニャ柔らかいんだよ。
…う〜ん?触った感じは、他の毛と一緒でシルクっぽいんだけど、鱗一つ一つはクッションっぽくて低反発枕みたいな感じかな?
…えっと、でも。アルスが警戒したり、自分で意識して毛や鱗を固くする事もできるけど、普段は全部ツルツルで柔らかいから触り心地がいいんだよ。」
と、ショウは説明してくれたが、普段は柔らかな毛や鱗を自分の意思で固くできるなんて…見るからに普通の動物ではないし、獣魔や妖魔の類にも思えない。
突然変異で生まれた子らしいけど…見れば見るほど不思議な生き物である。
そして、フジの案内で二人は常盤邸へと招待され、フジの両親に手厚い歓迎で迎えられた後
ようやく、フジの部屋へと入る事ができた。
フジの部屋は、白を基調としたシンプルかつオシャレ。所々にある縁取りは金色で、壁は林檎の形をモチーフとした柄が入っていて
インテリアやベットなどは、林檎と林檎の葉っぱをイメージした物がさりげなく飾られており可愛らしいアクセントになっている。
ここでも、フジの美的センスの良さが伺える。
ショウと陽毬は、とてもオシャレで素敵なフジの部屋に感動して、目を輝かせあちこちキョロキョロしていた。
あまりに、二人が褒めまくるものだからフジは恥ずかしいやら嬉しいやらで
ついつい
「ショウちゃんの部屋は、あの桔梗君と一緒の部屋だもの。
凝り性の桔梗君が徹底して、部屋のデザインしたりインテリアや家具とか色々揃えた素敵な部屋なんでしょ?」
なんて聞くと、ショウは驚いた顔をして…目が泳ぎ出すと少し俯いて
「…あ、ダメだよね?」
と、都合の悪そうなショウを見て
ショウそっちのけで、桔梗のハイセンスなアイデアと好みで揃えられた部屋なのかな?と、フジと陽毬は何となく察した。
確かに、桔梗に任せたらハイクオリティな素晴らしい部屋になる事間違いないが、桔梗だけでなくショウも一緒にいる部屋なんだからショウの意見も取り入れるべきだと
フジと陽毬は、桔梗に対して少しイラッとした。しかしだった。
「…今まで、ずっと私…桔梗の意見なんか聞いた事なかった…!…ど、どどうしよう!こんなのダメだよね?
フジちゃんに聞かれるまで、そんな事一度も考えた事なんてなかった!」
と、青ざめるショウに、フジと陽毬は
…え?
自分達が考えていた事とは全然違う話がショウの口から飛び出してきて、一瞬思考が停止してしまった。
「ショウちゃん。とりあえず、一旦落ち着くでござるよ。…つまり、どういう事ですかな?
…ん?部屋の好みは二人で話し合って決めた訳ではないと?」
なんて、首を捻る陽毬。
そんな陽毬の様子を見て、更にショウはバツ悪そうにズゥ〜ンと落ち込み
「…私達の部屋ね。いつも桔梗が、私にどんな部屋が好き?って、色んなお部屋の見本見せてくれて、その中で私が好きだって言った物を色々取り揃えてくれて私が好きなお部屋にしてくれる…から。
…桔梗の意見とか考えた事なかった。
…そうだよね。桔梗の好みとは正反対のお部屋だもん。
…桔梗、私に合わせてずっとずっと我慢してたのかも!…どうしよう…」
と、打ち明けてくるショウに
フジと陽毬は
…あ〜、なるほど。
そっち側かぁ〜。
なんて、妙に納得していた。
全て、ショウファーストの桔梗。
だけど、桔梗は文武両道なだけでなく多才でもあり
ファッションや美術関連の事でも、最新のトレンドやアイテムをいち早く取り入れ、それでいて自分らしさやいかに自分を良く魅せるかのコーディネートが抜群に上手い。
だから、モデルでもデザイナーでもインテリアコーディネーターや建築関係でも、職に就けばトップレベルになる事間違いなしだろう。
それくらいに、桔梗の美意識や美的感覚はとても優れている。
だけど、部屋にしろショウの私服にしろ
ショウの気持ちを大切にしたい桔梗は、自分の好みを押し殺してでもショウが喜んでさえくれれば至福なのだろう。
ただ、ショウが自分でアレコレ決められるとは思えない。
だから、気持ち悪いほどショウの事を知り尽くしている桔梗は
自分が認めるくらいにハイレベルな部屋のサンプル本や映像を見せて、だいたいの全体図や細やかな部分などショウの意見を聞いてショウが大喜びする部屋をコーディネートしているのだろう。
そして、ショウの話ぶりから
ショウが新たに興味を持ったり、部屋に飽きてきた頃にまた部屋の模様替えをこまめにしているように聞こえる。
…いや、あの桔梗だから絶対やってる。
おそらく、ショウの私服だってそんな感じで選ばせているのだろう。
だから、ショウの私服や身に付けるどれもがショウにとても似合っている。
そう思う二人だった。
おおよそ、大正解である。
桔梗の意見聞かないなんて、自分の事しか考えてなかったと凹むショウに
フジと陽毬は、気にしなくて大丈夫だとショウを無理矢理納得させた。
ここで、部屋の事でショウが落ち込んで家に帰ってみろ。
ショウを悲しませたと、たちまち桔梗は大魔王に大変身して……ゾゾゾォ〜!!?恐ろしい事が起こる予感しかない。
桔梗だけは、絶対に怒らせたらダメだ。きっと、世界…いや宇宙が崩壊する。と、フジや陽毬、アルスまでもが身震いした。
ちなみに、陽毬の部屋は自分の趣味に囲まれた素晴らしい癒しの空間らしい。
今度、陽毬の部屋にもお邪魔したいと思うショウとフジであった。
あれから、両親は何故か陽毬に気持ち悪いほど優しくなった。
理由があからさまなだけに、陽毬は実の両親ながらこの手のひら返しはショックだったし気色悪く思えて仕方なかった。
今の今まで、自分の娘である陽毬の事を“ゴブリン”と罵り嘲笑い罵り邪険な扱いばかりしてきたというのに。
社交界でのミキとの一件があってから、急にコロッと態度を変えてきたのだった。
気持ち悪いが、虐められるよりはだいぶマシだと陽毬は以前とは比べ物にならないくらい普通の暮らしをしていた。
これも、ミキ君のおかげだと感謝しながら。
それから、学校へ行くとまたも劇的変化があり陽毬は衝撃を受けた。
あの我が儘傲慢女王様のフジが、陽毬やミキ、ショウ、桔梗、風雷に、今までの事を深く謝罪してきたのである。
海外にいる、ショウや桔梗、風雷にはわざわざアポイントを取り許可を取ったうえで、わざわざ海外にまで足を運び謝罪したというのだ。
そこから、フジはケバケバ化粧にド派手なファッションから
ナチュラルメイクに、自分に合ったシンプルかつ清楚なファッションを好むようになっていた。
そして、驚く事に性格や内面まで劇的変化をして
我が儘傲慢女王様から
高潔でありながら周りへの配慮様な思いやりも忘れない慈愛溢れる美の女神様
へと変貌を遂げたのだった。
この短い期間に何があったのか分からないが、本当にフジは変わった。とても、いい方向にだ。
それから、フジとショウ、陽毬は一気に距離を縮め、今では桔梗も不機嫌になるほど3人は大の仲良しになり大親友にまでなっていた。
そこで、陽毬は男子がいる所ではできない相談が頭の中にチラつき
桔梗と風雷が世界一と謳われる大学院を首席で卒業して、ショウと共に帰国する報告を受けていた時に
中学校入学前の約一ヵ月ほどの春休みの間に、女の子にしか相談できない事があると話を持ち掛け
ショウの時差ボケや疲れを考慮して
一週間後に、フジの家で女子だけのお泊まり会をする事が決定したのだった。
それには、桔梗は大反対で
ペットの大樹改め“アルス”は
「あんまり、ショウを独占ばかりしてるとショウに嫌われちゃうんじゃない?
たまには、ショウもお友達と一緒に女子トークしたいと思うよ。」
と、イライラする桔梗を宥めようとすると、いきなりアルスをギロッと睨み付けてきて
「…そんな事言って、テメーはショウのペットという立場を利用して一緒に泊まりに行くんだろ!?」
「…それは仕方ないよ。ショウは、みんなにペットができたって自慢したいみたいだしさ。それに、ショウの安全を考えたら俺を連れて行った方がいいと思うよ?」
「ハッ!いいこと思いついたぜ!クフフ…!」
「……ちょっと、嫌な予感しかないんだけど!変な事、考えないでよ?」
「うるせー!このドスケベ犯罪者が!」
「……うわっ!??
ショウが居ないだけで(ショウは今現在トイレに行っている)、こんなに人が変わるなんて詐欺としか思えない。
俺がドスケベの犯罪者なら、君はドスケベのドM変態ストーカーだよね!
さすが、M級(マスターきゅう)魔道士の称号を得てるだけあるよ。」
「……ハ?MとMを掛け合わせて、上手いこと言ったつもりかよ?
うっわ!寒っ!寒すぎて、サブイボが出てきたぜ。」
結局、二人は口喧嘩を始め
ショウがトイレから戻ってきた時、桔梗はコロリと態度や雰囲気が変わり
ショウがお泊まりする事への“ある提案”をしたのだが、ショウの忠実なペットであり、機転のきくアルスは、桔梗の両親に桔梗の事をチクった為
結局、桔梗の願いも虚しく
桔梗を残して、ショウは女子のお泊まり会へ参加する事が決定した。フジや陽毬の猛反対もあった為だ。
“桔梗君が来ちゃったら、女子会じゃなくなっちゃうじゃない!何の為の女子会だと思ってるの?”
なんて、フジに怒られその度に“ごめんね?”と、ショウに宥められ…
ようやく、渋々といった感じに納得してないけど納得するフリをした。
その様子を見てアルスは
…あ、これ
桔梗は絶対何かやらかす
と、直感していた。
ショウが側に居ないイライラが収まらなくて、その矛先が誰かに向かわなければいいけど…
なんて、心配が絶えなかった。
桔梗の両親も、それを心底心配していてどうしたらいいものやらと頭を抱えていた。
同時に、ほぼ四六時中ショウから離れない桔梗から、一時的にでも解放されるショウの事を思えば
こんな事でもなければ、ショウは少しの自由もないだろうと考え
たかが一泊二日であるが、ショウと桔梗を引き剥がす時間を設けたいと実行したのだった。
さてはて、ショウから離れれば途端に大魔王と化す桔梗が、大人しくしてくれればいいのだが…
憂さ晴らしに妙な動きをしそうで怖いと、ショウがお泊まり会に行ってる間
優秀な部下数名に、桔梗を見張るよう命じたにだった。
…何事もなく、無事にショウのお泊まり会が成功する事を祈るしかない。
そんな事もありつつ、ショウをフジの家まで送った桔梗はショウに
困り事や、帰りたくなったり寂しくなったら直ぐに連絡する事などなど、心配そうに注意を促し
フジと陽毬に、“ショウをよろしく”と丁寧に頭を下げて、ワープで家に帰って行った。来る時は、なるべく一緒に居たいが為に車で来たくせに。
そんな桔梗の姿に、みんなちょっと可哀想かも…と、絆されるも。
いよいよ、女子のお泊まり会が始まる。
桔梗が帰った後
さっそく、ショウの横に浮かんでいる小動物の話題になった。
「ずっと、気になっておりましたが、その子がショウちゃんの新しくできた家族の“ペット”でありますな?
…しかし、この様な動物見た事も聞いた事もありませぬぞ!?」
と、驚きを隠せない陽毬は、マジマジとアルスを観察する様に見ていた。
「こんなに愛らしいのに神々しい動物は知らないわ。神聖で美しくもあるなんて…!名前はなんて言うのかしら?」
フジも、かなり驚き空中に浮かんでいる神聖なる美しくも愛らしい小動物に釘付けである。
「この子は、“アルス”って名前だよ。」
と、少し自慢気にペットの自己紹介をするショウに、アルスは嬉しいやら恥ずかしいやらで何だかこそばゆい気持ちになっていた。
そして陽毬に対して後ろめたい気持ちもあり、複雑な気持ちでここに居る。
そこは、自業自得なので仕方ない。
アルスと呼ばれる小動物は
大きさは、30cmほどあり
キタキツネとドラゴンを掛け合わせたような不思議な様子をしている。
総合的に見てキタキツネを連想させる…が、やはり違う。
短毛の毛は、まるで流れる本物の水のようで
大きな三角の耳とフサフサの尻尾は、草や葉っぱを連想させる。
首や手足首、耳や尻尾の付け根にはドラゴンのような鱗がついている。
鱗の色は、耳はペリドット、手足首は琥珀、尻尾はラピスラズリとまるで宝石のようにキラキラ輝いている。
背中には、大きさの異なる10個の羽があり上から葉っぱ、枝、木、草やツル、湖を連想させるようだ。
全体的の色合いは、緑、茶、青とグラデーションになっている。
切れ長の目も、長いまつ毛さえも同じような色のグラデーションカラー。
とても形容し難いが、言える事は
神々しくも愛らしい
だった。
そんな、珍しくも美しいペットに懐かれているショウがとても羨ましい。
先程から、少し暇ができればショウのほっぺにスリスリと頬擦りしたり、鼻チュウしたりして
空中に止まって大人しくしている時も、ショウの顔や肩、腕などどこかかしらに、自分の尻尾や羽を巻き付けている。
この行動を可愛いと思わない方がおかしい。
本当に美しくもキュートなアルスだ。
聞けば、アルスは性別のない珍しい動物らしく
親や兄弟、仲間達とは全く似ても似つかない姿で生まれた為に、親や仲間に異色だと捨てられてしまったらしい。突然変異というやつであろう。
それだけでも捨てられ要因があったというのに。
更には雄でも雌でもない。性別のない繁殖機能を持たない子孫も残せない出来損ないと判断されもしたのだろう。
それを、たまたまショウと桔梗が見つけ保護し宝来家で家族会議した結果
ショウにとても懐いていたので、ショウのペットとなる事になり
宝来家の家族の一員になったそうだ。
アルスに、そんな辛い過去があったなんてとフジや陽毬は大号泣だ。
それを見てショウは
“ウソついて、ごめんね?”
と、心の中で二人に謝罪した。
二人にウソつくなんて…と、心は痛むものの
本当の事を言えば
フジと陽毬は大混乱するだろうし、もしかしからショウが大嘘つきだと嫌われてしまうかもしれない。
もし、本当の事だと信じてもらえたとしても、アルスの人間性を疑われ
人間関係も崩すような、大変な自体を招く恐れがある為どうしても言えない事なのだ。
だから、家族会議でアルスの生い立ちについて、ほぼ家族全員で徹底的に考え設定した内容である。
しかし、神秘的なのに愛くるしくて、アルスとどうしても仲良くなりたいフジと陽毬だったが
懸命にアルスの名前を呼び、近づこうとするも二人を警戒しているのか
アルスは直ぐに、ショウの後ろに隠れるか二人の手が届かない上空へ飛んで行ってしまうかで、残念ながらアルスは主人以外には懐いてくれなさそうだ。
……残念。
だけど、触れる事はできなくても、この神秘的で愛らしいアルスの姿を遠くから見て愛でるだけで癒される。
まるで、アルスからマイナスイオンでも出ているかのようだ。
「…少し気になってるのだけど、アルスちゃんの首や手首、耳、シッポの付け根にある鱗なのかしら?
とても固そうだけど、アルスちゃん自身の柔らかい皮膚に刺さったりしないの?大丈夫なの?」
と、アルスに生えている鱗の様な皮膚は見るだけなら宝石の様に美しいのだが、とても固そうでひし形の形私していて皮膚に突き刺さりそうで想像するだけで痛々しく思えてしまう。
「…え?…あ!大丈夫だよ。アルスのコレね(鱗っぽい)、普段はフニャフニャ柔らかいんだよ。
…う〜ん?触った感じは、他の毛と一緒でシルクっぽいんだけど、鱗一つ一つはクッションっぽくて低反発枕みたいな感じかな?
…えっと、でも。アルスが警戒したり、自分で意識して毛や鱗を固くする事もできるけど、普段は全部ツルツルで柔らかいから触り心地がいいんだよ。」
と、ショウは説明してくれたが、普段は柔らかな毛や鱗を自分の意思で固くできるなんて…見るからに普通の動物ではないし、獣魔や妖魔の類にも思えない。
突然変異で生まれた子らしいけど…見れば見るほど不思議な生き物である。
そして、フジの案内で二人は常盤邸へと招待され、フジの両親に手厚い歓迎で迎えられた後
ようやく、フジの部屋へと入る事ができた。
フジの部屋は、白を基調としたシンプルかつオシャレ。所々にある縁取りは金色で、壁は林檎の形をモチーフとした柄が入っていて
インテリアやベットなどは、林檎と林檎の葉っぱをイメージした物がさりげなく飾られており可愛らしいアクセントになっている。
ここでも、フジの美的センスの良さが伺える。
ショウと陽毬は、とてもオシャレで素敵なフジの部屋に感動して、目を輝かせあちこちキョロキョロしていた。
あまりに、二人が褒めまくるものだからフジは恥ずかしいやら嬉しいやらで
ついつい
「ショウちゃんの部屋は、あの桔梗君と一緒の部屋だもの。
凝り性の桔梗君が徹底して、部屋のデザインしたりインテリアや家具とか色々揃えた素敵な部屋なんでしょ?」
なんて聞くと、ショウは驚いた顔をして…目が泳ぎ出すと少し俯いて
「…あ、ダメだよね?」
と、都合の悪そうなショウを見て
ショウそっちのけで、桔梗のハイセンスなアイデアと好みで揃えられた部屋なのかな?と、フジと陽毬は何となく察した。
確かに、桔梗に任せたらハイクオリティな素晴らしい部屋になる事間違いないが、桔梗だけでなくショウも一緒にいる部屋なんだからショウの意見も取り入れるべきだと
フジと陽毬は、桔梗に対して少しイラッとした。しかしだった。
「…今まで、ずっと私…桔梗の意見なんか聞いた事なかった…!…ど、どどうしよう!こんなのダメだよね?
フジちゃんに聞かれるまで、そんな事一度も考えた事なんてなかった!」
と、青ざめるショウに、フジと陽毬は
…え?
自分達が考えていた事とは全然違う話がショウの口から飛び出してきて、一瞬思考が停止してしまった。
「ショウちゃん。とりあえず、一旦落ち着くでござるよ。…つまり、どういう事ですかな?
…ん?部屋の好みは二人で話し合って決めた訳ではないと?」
なんて、首を捻る陽毬。
そんな陽毬の様子を見て、更にショウはバツ悪そうにズゥ〜ンと落ち込み
「…私達の部屋ね。いつも桔梗が、私にどんな部屋が好き?って、色んなお部屋の見本見せてくれて、その中で私が好きだって言った物を色々取り揃えてくれて私が好きなお部屋にしてくれる…から。
…桔梗の意見とか考えた事なかった。
…そうだよね。桔梗の好みとは正反対のお部屋だもん。
…桔梗、私に合わせてずっとずっと我慢してたのかも!…どうしよう…」
と、打ち明けてくるショウに
フジと陽毬は
…あ〜、なるほど。
そっち側かぁ〜。
なんて、妙に納得していた。
全て、ショウファーストの桔梗。
だけど、桔梗は文武両道なだけでなく多才でもあり
ファッションや美術関連の事でも、最新のトレンドやアイテムをいち早く取り入れ、それでいて自分らしさやいかに自分を良く魅せるかのコーディネートが抜群に上手い。
だから、モデルでもデザイナーでもインテリアコーディネーターや建築関係でも、職に就けばトップレベルになる事間違いなしだろう。
それくらいに、桔梗の美意識や美的感覚はとても優れている。
だけど、部屋にしろショウの私服にしろ
ショウの気持ちを大切にしたい桔梗は、自分の好みを押し殺してでもショウが喜んでさえくれれば至福なのだろう。
ただ、ショウが自分でアレコレ決められるとは思えない。
だから、気持ち悪いほどショウの事を知り尽くしている桔梗は
自分が認めるくらいにハイレベルな部屋のサンプル本や映像を見せて、だいたいの全体図や細やかな部分などショウの意見を聞いてショウが大喜びする部屋をコーディネートしているのだろう。
そして、ショウの話ぶりから
ショウが新たに興味を持ったり、部屋に飽きてきた頃にまた部屋の模様替えをこまめにしているように聞こえる。
…いや、あの桔梗だから絶対やってる。
おそらく、ショウの私服だってそんな感じで選ばせているのだろう。
だから、ショウの私服や身に付けるどれもがショウにとても似合っている。
そう思う二人だった。
おおよそ、大正解である。
桔梗の意見聞かないなんて、自分の事しか考えてなかったと凹むショウに
フジと陽毬は、気にしなくて大丈夫だとショウを無理矢理納得させた。
ここで、部屋の事でショウが落ち込んで家に帰ってみろ。
ショウを悲しませたと、たちまち桔梗は大魔王に大変身して……ゾゾゾォ〜!!?恐ろしい事が起こる予感しかない。
桔梗だけは、絶対に怒らせたらダメだ。きっと、世界…いや宇宙が崩壊する。と、フジや陽毬、アルスまでもが身震いした。
ちなみに、陽毬の部屋は自分の趣味に囲まれた素晴らしい癒しの空間らしい。
今度、陽毬の部屋にもお邪魔したいと思うショウとフジであった。