花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「コノカ?」
「うん! このか!」

「ふーん。僕は櫂李」
「かいり?」
僕は頷いた。

「かいて!」
「え?」

「このちゃん、ひらがなよめるんだよ。かいて!」
そう言って、コノカが差し出したのは先ほどのピンク色の桜の絵が描かれた紙だった。

読めるもなにも、名前を教えたんだから読めるに決まっているだろうと思ったけど、子どもにそんなことを言っても仕方がないんだろうな。

「か・い・り……あ! このかの〝か〟!」
「うん、そうだね」
「かいりくんのか、このかのか、いっしょだね」
コノカは僕の書いた名前を嬉しそうに何度も何度も声に出して読み上げた。

「コノカ、もう帰らないとお家の人が心配するよ。お母さんの誕生日なんだろ?」
「うん! かいりくん、みて! じょうずにかけたかな? おかあさんにあげるえ!」

そう言ってコノカが見せた絵は、全然上手くなかった。

「うん、上手だね。お母さん、きっとすごく喜ぶよ」
だけど涙が出そうなくらい心が温かくなるような絵だった。

誰かを想って描いた絵には、人を励ましたり勇気づけたりする力があるんだって、この日初めて知った。
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