花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「生憎私は君よりも一回り近くも早く生まれてしまったから、木花ほど清らかな人間というわけではない」

櫂李さんの匂いがする。

「君にこれまでの全てを言えるわけでもないし、言うつもりもない。だけど」

彼が私を見つめる。

彼は私の右手に左手の指を絡めて、自分の心臓の場所にあてる。

「私の心の、一番大事なところにはずっと木花がいたし、今もずっといる」

ずっと……。

「私はあの日からずっと、君の笑顔を想って絵を描いている」
そう言って彼が私の手に口づける。

「ずっと……?」
「ずっと」

「絵……全部?」
「全部」

頷いて、笑いかけてくれる。

『私の全ては木花のものだ。あの日から』

櫂李さんの〝あの日〟は十六年前だったんだ。


嘘みたい。
嘘みたい。
あの日より前のあなたを全部、くれるなんて。
絶対に叶わないって思っていたのに。


「こんなの、狡いです……」
目から涙の粒がこぼれる。

「もっと好きになって、もっともっと欲しいって思ってしまいそう」

「あげるよ、全部」

嬉しくて、愛おしくて、彼の着物をギュッと掴む。
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