花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「そんなこと……私、こんなにきれいじゃ——」
彼が後ろからギュッと私を抱きしめる。

「きれいだよ。木花は、もっとずっときれいだ」
心臓がトクンと脈打って、ギュッと締めつけられる。

『何描いてるんですか?』
『桜』
あの花火の夜のスケッチ……。

「売るつもりで描いていたんだけど、描き上がりそうになるにつれてどうにも手放したくなくなってしまってね。だいたい、木花の絵が他の人間の家にあるというのも耐えられそうにない」
自分自身への呆れを込めたように彼が笑う。

「あの日、如月たちに渡した絵はこの絵の代わりに描いたんだ」
二人に渡していたのは秋の草花と小鳥の絵。
「そうだったんですか」

「私が約束を破っていないとわかってくれるか?」
「え……?」

「完成したら君に見せると言ったのは、この絵だ」
「あ……」
私は無言でコクッと大きく頷いた。

「なら、あの時の詫びを返してもらおうか」
彼は妖艶な笑みを浮かべる。

「え……」

私の顔を後ろに向かせ、唇を奪う。

「ん……っ、櫂李さ——」

そのまま、吐息ごと溶かされる。
息ができなくて全身が甘く痺れる。
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