花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
それから彼は全身にキスを降らせる。
耳朶は少し噛むみたいに。

「んっあっ」
両膝で立たされて、彼の指が、身体の奥を刺激する。
縋りつくみたいに目の前に座っている彼にしがみく。
見下ろすように目が合う。

「キス……キス、したい」
彼が笑う。
「あの日と同じ表情(かお)

だって、安心するから。
「キス……してると、櫂李さんが近く……」
だけどあの日よりもっとずっと好き。

混濁してきた思考で、必死で吐息と舌を絡める。
意識と一緒に熱が溶けてく。

「あ、だめ」
「気持ちいいんだね」
彼が静かに笑う。

「いいよ」

そのひと言で、目の前が真っ白になる。 脚がガクガクと震えて身体を支えていられない。

仰向けで倒れ込んだ私に、彼が覆い被さる。
暗くても、意識がぼんやりしてても、彼の目はすぐに見つかる。

「木花」

優しく唇を落とされて、また、熱っぽい舌を絡める。

「お願い、早く……もっと近くに、きて」
彼が困ったように笑ったのがわかった。

「木花」
また名前を呼んで、私の手に指を絡めて握ってくれる。

「ぁ……んんっ」
彼に貫かれる刺激に、私の手が、彼の手を力いっぱいギュッと握る。

「……っ」

吐息に混じって彼が時折漏らす声が、これ以上ないくらい艶っぽくて全身が切なくなる。

「木花、私はいつも君のことを考えているよ」
彼が優しく触れるようなキスをくれる。

「覚えておいて」

身体の中から溶けていく。
心も、言葉も。

それから、久しぶりに櫂李さんの匂いと温もりに包まれて眠りについた。
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