花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
***

一月の中旬。

私は期末のテスト勉強やレポート課題に追われていた。
香奈にテストの傾向を教えてもらったり、調べ物をしに図書館に通ったりととにかく忙しい。
学科の特性上、美術館での展覧会にも頻繁に通ってレポートを提出しなければいけない。
それに、出遅れ気味な就職活動も少しずつ動き始めている。

「さすがに期末は大変です。テストだけでも大変なのにレポートの数がすごくて。アルバイトもかなり減らしてもらっちゃいました」
夕飯を食べながら、櫂李さんに報告する。

「そうか。あまり無理をしないように」
彼の受け答えがなんとなく元気が無いような気がする。

「もしかして体調、悪いですか?」
私の質問に、彼が一瞬ハッとしたように見えた。
「ん? ああ、少し疲れているかな」
「大丈夫ですか? 櫂李さんだって大学の先生だから、この時期は成績をつけたりきっと忙しいですよね」
「……ああ、少しね」
いつもどこか飄々と余裕のある櫂李さんには珍しい答え。

講師の仕事は今年度から始めたばっかりだもん、彼だって慣れてないんだ。

その夜はいつも通り彼の布団に潜り込むと、ぎゅーっと顔を押しつけた。
「どうした?」
「櫂李さんがお疲れだから、今日はこうやって短時間で櫂李さんをたくさん吸収して自分の布団に戻ります」
広々とした布団でゆっくり休んで欲しい。

「なんだそれ」
彼は笑う。

「そんなことしなくていい。いつも通り、ここにいて欲しい」
『ここにいて欲しい』がちょっと可愛くてキュンとする。

「木花は最近よくあの香水をつけているね」
「はい。ここのところ忙しいから、この香りに元気をもらえたらいいなって。寝るときも良い夢が見られる気がして少しだけつけてます」
少し甘くて、でも甘すぎない桜の香り。

「良い夢か。暗闇でも香りがすればすぐに木花だとわかるな」
そう言って、いつもみたいに私の髪を撫でてくれる。

「櫂李さんの匂いもとっても好きです。こうやって抱きしめてもらうと安心します」
出会った日に安心させてくれた匂い。

「そうか……」

櫂李さんはポツリと言うと、ギュッと力を込めて抱きしめてくれた。

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