花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「ずっと気づいてたんだろ? 俺が木花のこと好きだって。こういう空気になるたびに話を逸らされてたことくらい、わかってるよ」
少しだけ怒ったような声色。

「……颯くん、今まで彼女がいたことだってあるじゃない」
「今までは木花は恋愛する気が無いんだって思ってたから。それで安心してた部分もあった。それなのに突然結婚するなんて」

「だ、だけどそんな条件」
「俺は、それくらいお前のことが好きなんだよ。何年も前から。春海なんかが現れるよりずっと前から」

「でも、私が好きなのは……」
「離婚したんだろ? 手術受けるって言ったんだろ? お前がそうやって未練がましく指輪なんかつけてたところで、それがあいつの答えってことだ」
私は何も言えなくなって押し黙ってしまう。

「木花が俺のところに来るっていうなら執刀する。手術するかどうかは木花次第だ」
「……こんなのひどいよ」

「俺は別に今どう思われようと構わない。俺の方が幸せにしてやれる自信があるから」
彼の目がまっすぐに私を捕らえて、本気だって伝えてくる。

「俺は、木花を傷つけるようなことはしない」
「でも……」

「絶対大事にするから」
「こんなかたちで颯くんのものになったって、私はずっと櫂李さんのことが好きだよ」
「それでもいい」

颯くんの気持ちには、彼が言う通り本当はずっと気づいてた。
多分、私が高校生の頃からだと思う。
彼の目が、声色が、少しでも〝男性〟になったらいつも話題を逸らしてた。
だって私にはお兄ちゃんでしかないから。

だけど彼は諦めてくれなかった。
ずっと私を想ってくれていた。

「こんなの……断れるわけない」

颯くんは顔はかっこいいし、背だって高い、仕事はお医者さん。
悪い話なんかじゃない。こんな人に想われて、贅沢なくらい。

< 146 / 173 >

この作品をシェア

pagetop