花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「木花」

時間がかかってやっと落ち着いてきた私に颯くんが背中を向けたまま声をかける。
私はゆっくり上半身を起こして、服も髪も乱れたまま無言で彼の方を向く。

「あいつは……俺の条件なんかに乗ってこなかったよ」

颯くんが、櫂李さんを診察した日のことを話してくれた。


***

『つくづく運に見放されているな、私も木花も』

あいつの言葉に、俺はものすごく腹が立った。
俺が一番欲しくて手に入れられないものを手に入れておきながら〝運に見放されてる〟なんて。

だから、だめだとわかっていて条件を出した。

『なあ、手術してやるから木花と別れてくれないか?』

俺の提案に、あいつは一瞬驚いたように黙った。

『木花を俺にくれよ』
『……医師の言葉とは思えないな』

もちろん、俺だって乗ってくるなんて思ってたわけじゃない。

『それだけ木花のことを想っているということか』
それからため息をついた。

『木花とは別れるよ』

今度は俺の方が驚いた。
< 158 / 173 >

この作品をシェア

pagetop