花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「よお、木花」
「颯くん。こんにちは」
祖母のベッドのカーテンを開けて、白衣の男性が顔を出す。
彼は祖母の主治医の先生……ってわけではなくて、この病院で医師をしている年上の幼なじみ。
黒い短髪に凛々しい眉と目で、世間様が言うにはなかなかのイケメン。
菊月颯太郎、二十九歳。
立場にも年齢にも共通点の無さそうな彼とどうして幼なじみなのかといえば、彼の実家もあの門の向こうにあって、幼少期によく遊んでもらっていたから。
古川家が没落してからも颯くんは変わらずに接してくれたし、ときどき私をご飯に連れて行ってくれた。
この病院に祖母が入院できたのも、彼と彼のお父様が仲介してくれたから。
颯くんは一昨年から昨年まではドイツにいて、詳しいことはよくわからないけどとても優秀なお医者さんらしい。
「お、桜?」
「うん」
「このちゃんがね、持ってきてくれたのよ。櫻坂の桜」
「え? お前まさか花泥棒……」
颯くんの言葉にギクっとする。
「ち、ちょっと違うよ! 櫻坂の桜の兄弟桜なの」
「そんなものがなんで?」
「親切な人が譲ってくれたの」
また、櫂李さんのことを思い出して胸が高鳴ってしまう。
「木花?」
「え? あ、えへへ」
今朝のことは絶対に誰にも言えないから、笑ってごまかすしかない。
「颯くん。こんにちは」
祖母のベッドのカーテンを開けて、白衣の男性が顔を出す。
彼は祖母の主治医の先生……ってわけではなくて、この病院で医師をしている年上の幼なじみ。
黒い短髪に凛々しい眉と目で、世間様が言うにはなかなかのイケメン。
菊月颯太郎、二十九歳。
立場にも年齢にも共通点の無さそうな彼とどうして幼なじみなのかといえば、彼の実家もあの門の向こうにあって、幼少期によく遊んでもらっていたから。
古川家が没落してからも颯くんは変わらずに接してくれたし、ときどき私をご飯に連れて行ってくれた。
この病院に祖母が入院できたのも、彼と彼のお父様が仲介してくれたから。
颯くんは一昨年から昨年まではドイツにいて、詳しいことはよくわからないけどとても優秀なお医者さんらしい。
「お、桜?」
「うん」
「このちゃんがね、持ってきてくれたのよ。櫻坂の桜」
「え? お前まさか花泥棒……」
颯くんの言葉にギクっとする。
「ち、ちょっと違うよ! 櫻坂の桜の兄弟桜なの」
「そんなものがなんで?」
「親切な人が譲ってくれたの」
また、櫂李さんのことを思い出して胸が高鳴ってしまう。
「木花?」
「え? あ、えへへ」
今朝のことは絶対に誰にも言えないから、笑ってごまかすしかない。