花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
***

「それからも経過観察と薬の処方だけは続けてるから、お前と本当に離婚したってのもその時聞いた」
颯くんは、私の方を向いた。

「それじゃあ櫂李さん……手術、受けないの?」

颯くんは頷いた。
「最近の診察の時にも意思を確認した」

櫂李さん……。

「……手術ってそんなに難しいの?」

颯くんはまた頷いた。
「手術自体の難易度も高いし、過去の症例で言うなら成功してもその後も油断できない」

櫂李さんや私みたいな人生で、そんなものに前向きな希望を見出すのは難しい。

「運、か」
颯くんがつぶやいた。

「なあ木花、お前も自分は運が悪いとか思ってんの?」
彼の質問に頷いた。

「……神様は意地悪だって、そう思いながら生きてきた」

颯くんは「はぁ」とため息をついた。
「今までがどうかは知らないけどな」
彼が言う。

「俺からしたら、今のお前たちは運が良いよ」

「え……?」

「そうやって、お互い好きな相手にめぐり会えて想われてさ」
颯くんの言葉にまた胸がギュッとなる。

「しかもこんなに優秀な眼科医がたまたま身近にいて、たまたま木花にどうしようもなく惚れてんだ」
「颯くん……」

「だから木花」
颯くんが私の目を見据える。

「お前があいつを説得しろ」
「え……」

「俺だって、目の前に珍しい症例の患者がいるのに手術できなくてイライラしてんだよ」
颯くんが、わざとこういう言い方をしてるってわかる。

「ずっと俺を利用してたって言うんなら、お詫びに俺に仕事の手柄立てさせろよ」
「颯くん」

私は気づいたらまた泣いていて、彼の言葉にコクッと頷いた。

「もちろん手術が失敗する可能性だって低いとは言えないからな」
「……わかってる。ありがとう」
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