花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「しばらくは桜しか描きたくないんだ」
「どうして?」

「木花に出会ったからかな」
「よくわからない」

「わからなくていいよ。とにかく君が私のミューズだってことだ」
また笑顔ではぐらかされてしまう。

刷毛をスーっと左から右に滑らせる彼の手はとても大きくて指が長くてきれいで、柔らかな動きがすごく色っぽい。

「木花、そんなに見つめられるとやりにくい」

そう言われてハッとする。

「ごめんなさい。動きがきれいで、なんていうか色っぽくて……」
「欲情してるってこと?」
意地悪っぽい笑顔の彼に顔が熱くなる。

「そ、そんなんじゃないです……」

こうやってからかわれたりはするけど、時間が穏やかに過ぎていく。

「こんな風にお休みの日に誰かと過ごすって、特別なことじゃないんですよね」
櫂李さんと結婚してからは、何度も繰り返している休日の昼下がり。

「私にとっては全部奇跡みたいなのに」
「私たちは家族がいるのが当たり前ではないからね」
「でももう、当たり前ですね」

私たちは顔を見合わせて笑う。
彼の顔が少しさみしげで、きっと私も同じ顔をしてるんだってわかる。


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