花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
櫂李さんのお父様も有名な画家で、お母様はフランスと日本のハーフで世界中を飛び回るようなキュレーターをしていたそうだ。
二人とも、彼が高校生の頃に外国での飛行機事故で亡くなったと聞いた。

櫂李さんも子どもの頃は外国と日本を行ったり来たりの生活だったらしい。
ご両親が亡くなってからはこの家でおじい様とおばあ様と暮らしていたけど、その二人ももう他界してしまっている。

彼も私も、いわゆる普通の家族の日常というものから随分と離れたところで過ごしてきた。


その日の夜。

「私、専攻を東洋美術史に変えようと思うんです」
いつかの朝みたいに、櫂李さんに布団の中で背中から抱きしめられながら言う。

「なぜ?」
「東洋専攻には日本美術も含まれるから、日本画のことも勉強できるの。単位は西洋専攻と共通の授業もあったから、少し授業を増やせば四年で卒業できると思う」

私の大学は卒業論文を書かなくても所定の単位を取れば卒業できる。
三回生の途中から専攻を変えても、授業数を増やせば問題がない。

「日本画に興味がわいた?」
私はコクッと頷いて、身体の向きを変えた。

櫂李さんの瞳を見つめる。
「なにか、櫂李さんの力になれるかもしれないでしょ?」

彼が私の頬にかかった髪を避けて肌に触れる。

「気持ちは嬉しいけど、木花は木花のやりたいことをやればいい」
「私、将来の夢とか目標って子どもの頃以来持ったことがないんです」

櫂李さんは少しだけ驚いたように目を見開いた。
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