花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
背後からの太い声と懐中電灯の光にビクッと肩を上下させて、ハサミを落としてしまった。

痛い……少し、右手の甲を切ってしまったみたい。
でも、そんなことを気にしている場合じゃない。
守衛さんに見つかってしまった。
お手洗いじゃなくて、見回りだったのかな。
この誰がどう見ても桜泥棒でしかない、弁解の余地のない状況をどうするか。

「なんだこのハサミは」
白髪交じりの守衛さんがハサミを拾う。

「えっと……その」
「桜を切ろうとしていたのか?」
守衛さんは暗くてもわかる鬼の形相。

「この桜が街のみんなの大切な宝物だってわかってやってるのか?」

わかってます。
わかってるから、枝を一本だけもらおうと思ったの。

〝街のみんな〟の中の、一人のために。

「君、事務所まで来なさい。話はそこで聞かせてもらう」
ああ、このまま連れて行かれたら、きっと住所氏名を聞かれて……連絡がいって悲しませてしまう。

どうして? 喜ばせようとして、どうして悲しませるようなことになってしまったんだろう。

がっくり肩を落としてみても罪は罪。
あきらめておとなしく守衛さんについていこうと決めた。


桜並木が風でザワッと音を立てる。


「ちょっと待ってください」




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