花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
家に帰ってからも花火の余韻に浸りたかった私は浴衣のまま縁側に腰掛けた。
ここは先ほどまでの喧騒とはまるで違う静かな夏の夜。
虫の声も少しだけ聞こえる。
「もう遅いのに、寝ないのか?」
花火大会の人混みを避けて帰ってきたからもう二十三時近い。
「もう少しこうしてたい」
「足が痛くなったりはしていない?」
履き慣れない下駄で歩いていた私を気遣ってくれる。
「大丈夫」
下駄を脱いだ足を縁側でぶらぶらさせる。
櫂李さんは脚を折り曲げて縁側のガラス戸に寄りかかっている。
普段はあまりしない崩した姿勢。
「夜は目が疲れる」と、目薬をさす。
だけど膝の上にはスケッチブックを抱えている。
「何描いてるんですか?」
「桜」
「本当に桜ばっかりなんですね。今日はさすがに花火を描いてるかと思いました」
驚く私に櫂李さんはどことなく含みのある無言の笑顔。
「花盗人も盗めないですね」
「ん?」
「花火はきれいだけど、誰も盗めないなって思って」
「盗みたいと思ったのか?」
彼が笑いながら聞いてくる。
ここは先ほどまでの喧騒とはまるで違う静かな夏の夜。
虫の声も少しだけ聞こえる。
「もう遅いのに、寝ないのか?」
花火大会の人混みを避けて帰ってきたからもう二十三時近い。
「もう少しこうしてたい」
「足が痛くなったりはしていない?」
履き慣れない下駄で歩いていた私を気遣ってくれる。
「大丈夫」
下駄を脱いだ足を縁側でぶらぶらさせる。
櫂李さんは脚を折り曲げて縁側のガラス戸に寄りかかっている。
普段はあまりしない崩した姿勢。
「夜は目が疲れる」と、目薬をさす。
だけど膝の上にはスケッチブックを抱えている。
「何描いてるんですか?」
「桜」
「本当に桜ばっかりなんですね。今日はさすがに花火を描いてるかと思いました」
驚く私に櫂李さんはどことなく含みのある無言の笑顔。
「花盗人も盗めないですね」
「ん?」
「花火はきれいだけど、誰も盗めないなって思って」
「盗みたいと思ったのか?」
彼が笑いながら聞いてくる。