花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「盗みたいっていうか……思い出ごと、持って帰って来れたらいいのにって思いました。花火を小さくして水槽みたいなところに入れておけたらいいのにな、って」
「君はおかしなことを言うな」
「そうですか? ずーっとながめていられそうです」

彼は手を動かしながらまた笑っている。

「その場限りで散るから美しいものだってあるよ。また見に行けばいい」
「うん、また。ふふ」
何気ない〝また〟がうれしい。

「きっと九月にもどこかで花火大会がありますよね。日程調べてみようかな。浴衣もまた着たいし」

縁側の外に投げ出した自分のつま先を見ながら鼻唄まじりではしゃいでしまう。
気が早いけど、来年も再来年も櫂李さんと行けるといいな。

「楽しみ」

「そうだな」
彼の声が急に耳元で聞こえたと思ったら、後ろから抱きしめられる。

「あ……っ」
うなじに口づけられて、かんざしを抜かれて髪がはらりと解ける。
胸元に彼の手が差し入れられる。

「浴衣……んっ」
「また今度着せてあげるよ」
「んん……」

少し前まで人混みにいたせいか、いつもよりも静寂を強く感じる夜。
自分の漏らす声が耳に響いていやらしい。
家の外まで聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

「我慢しないで、もっと聞かせて」

櫂李さんは全部わかっていて耳に触れる近さで笑いながら囁く。
< 55 / 173 >

この作品をシェア

pagetop