花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「緊張します……」
「普段通りで大丈夫だよ。何か食べ物を取ってこようか?」
「あ、あの、ご挨拶のときって——」
「妻です」って言えばいいんでしょうか、と聞こうとしたときだった。

「櫂李」

櫂李さんと同じように着物を着た男性が声をかけてきた。
櫂李さんと同年代くらい?
髪は黒いけどよく見たらツーブロックで、和装をしているのが意外な雰囲気の人。

「よお。珍しいな、お前がパーティーに出るなんて。あ、でも今年は大学の講師もやってるんだったっけ? ひきこもり卒業ってことか? って、お!」

話好きな方なんだろうなってすぐにわかるその男性が、私に気づいて反応する。

「この子、もしかして?」

櫂李さんは「ふう」と面倒そうなため息をつく。

如月(きさらぎ)、君は一人でもずっと喋っていそうだな」
如月と呼ばれた彼は「あはは」と笑った。

「まあな、ってそんなことはどうでもいいだろ。それより、この子がお前の奥さん?」
櫂李さんが頷く。
〝奥さん〟と、他人に言われると気恥ずかしい。

「木花、彼は如月(れん)。こう見えても名のある書道家で、ギャラリーのオーナーもしている」

家に出入りしている画商の男性だ、と気づく。
後ろ姿と髪形が一致した。

「彼女が私の妻の木花だ」

「はじめまして、春海の妻……の木花です。よろしくお願いします」
言い慣れていなくてたどたどしさが出てしまった。

「初々しいなあ。ていうかコノカちゃん若いよね、いくつ?」

如月さんの馴れ馴れしいとも思える距離感に櫂李さんは少し呆れている。
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