花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
助かった。
「あの、ありがとうございました」
お礼を言うためにキャップを取ると、結んでいた髪もハラリと解けてしまった。
「君、桜が欲しいの?」
「え? はいまあ。でももう、あきらめました……痛っ」
うっかり右手に力を入れて、傷に刺激を与えてしまった。
「ケガをしているのか?」
「い、いえ、小さな傷なので全然大丈夫です」
「ちょっと私について来なさい」
〝来なさい〟なんて、先生みたいな口調。
二十代後半から三十代前半くらいだろうかという見た目とは少し印象に乖離がある。
助けてもらった手前、おとなしく彼についていくしかない。
「しばらくこれを当てておくといい」
そう言って彼が差し出したハンカチを受け取る。
血がついてしまう申し訳なさはあったけど、傷に当てさせてもらう。
結ばれた長い髪をボーっと見つめながら歩いていくと、彼はエリアの境の門をカードキーで解錠した。
「え、門の中に入って大丈夫なんですか……?」
「住人が許可した人間なら大丈夫だよ」
門の向こうの住人。
それだけで由緒正しい家柄の人間なのだとわかる言葉。
「少し歩くけど、ケガは大丈夫?」
気遣ってくれる言葉に、私はコクッと頷く。
少し歩く、と言った理由はわかっている。
門の中の家は一軒一軒がとても広いから、徒歩でそれぞれの家にたどり着くには時間がかかる。
五分ほど歩いたところで、彼の足が止まる。
「ここだよ」
そう言った彼が敷地の中に入っていったのは広々とした品の良い純和風のお屋敷だった。
「あの、ありがとうございました」
お礼を言うためにキャップを取ると、結んでいた髪もハラリと解けてしまった。
「君、桜が欲しいの?」
「え? はいまあ。でももう、あきらめました……痛っ」
うっかり右手に力を入れて、傷に刺激を与えてしまった。
「ケガをしているのか?」
「い、いえ、小さな傷なので全然大丈夫です」
「ちょっと私について来なさい」
〝来なさい〟なんて、先生みたいな口調。
二十代後半から三十代前半くらいだろうかという見た目とは少し印象に乖離がある。
助けてもらった手前、おとなしく彼についていくしかない。
「しばらくこれを当てておくといい」
そう言って彼が差し出したハンカチを受け取る。
血がついてしまう申し訳なさはあったけど、傷に当てさせてもらう。
結ばれた長い髪をボーっと見つめながら歩いていくと、彼はエリアの境の門をカードキーで解錠した。
「え、門の中に入って大丈夫なんですか……?」
「住人が許可した人間なら大丈夫だよ」
門の向こうの住人。
それだけで由緒正しい家柄の人間なのだとわかる言葉。
「少し歩くけど、ケガは大丈夫?」
気遣ってくれる言葉に、私はコクッと頷く。
少し歩く、と言った理由はわかっている。
門の中の家は一軒一軒がとても広いから、徒歩でそれぞれの家にたどり着くには時間がかかる。
五分ほど歩いたところで、彼の足が止まる。
「ここだよ」
そう言った彼が敷地の中に入っていったのは広々とした品の良い純和風のお屋敷だった。