花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「君の名前の字はね、桜の古い呼び名なんだ」
「え?」

「その由来といわれているのが、コノハナノサクヤビメ」
「そうだったんですか? 全然知らなかった」

だからあの日、櫂李さんは『このはな』ってつぶやいたんだ。

「君の名前を聞いたときに、とてもぴったりな名前だと思った」
彼は私を見つめて微笑む。

「だけどさ〜美人薄命の象徴でもあるんだよなーサクヤビメは。サクヤが桜の語源とか、儚く散るのが桜のようだから、とかいろいろ由来はあるみたいだけどな。ま、薄命でもとにかく美人らしいよ」
「え……」

「如月」
「あ、悪い。ごめんね、木花ちゃん」

薄命。
その手の言葉には他の人より敏感になっていると思う。
多分、櫂李さんも。

「君にぴったりだと言ったのは、そういう意味ではない」

心配そうな櫂李さんに私は少ししょんぼりしつつも笑顔を作って頷く。
櫂李さんがそんな風に思っていないのはわかるから。

「櫂李がそんな顔するとはな。デレデレじゃん」

その後は如月さん以外にも櫂李さんの知り合いがたくさん声をかけてくれたので、たくさん挨拶をした。
絵に関する職業の人もいれば、市長さんやどこかの会社の社長さんや重役の人もいて、画家としての彼の人気や知名度を初めて目の当たりにした。

「さすがにわかってるつもりだったけど、櫂李さんてすごいんですね」
今度は私がため息交じりに言う。

「私は木花に褒められるのが一番嬉しいよ」

あなたはいつもそう言ってくれるけど、私はそんな風に言ってもらえるような人間なのかな。

「ちょっとメイク直してきます」

< 60 / 173 >

この作品をシェア

pagetop