花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「トウコ」
ドキッとする名前を口にしたのは如月さん。
「俺もいるのに櫂李だけに声かけるのかよ〜」
「あなたとはしょっちゅう会っているでしょ」
「だからってさー、親しき仲にも、だろ? それにしても遅かったな」
さっき会ったときの通り、気怠げな色っぽい声音。
「他のお客様につかまって、なかなか声がかけられなかったのよ」
不満そうに言う仕草がどこか可愛らしい。
魅力的な女性だってすぐにわかるような人。
この人が〝トウコ〟さんだったなんて。
彼女の視線がこちらに向けられる。
「櫂李の奥様よね。ご紹介いただいてもいいかしら」
「櫂李」という親しげな呼び方と、先ほどの冷たさのある笑顔を思い出して少しだけビクついてしまう。
「木花、彼女は網代透子さん。如月と共同でギャラリーを経営している。私の絵の行き先はこの二人に委ねることが多い」
「透子って呼んでくださいね」
「はい……」
如月さんと一緒に見かけた後ろ姿は透子さんだったんだ。
それを知ると、親しげな呼び方もおかしくはないのかもしれない。
それから、櫂李さんは如月さんにしたみたいに私を透子さんに紹介してくれた。
「木に花?」
透子さんも私の名前の字に反応する。
「そう、サクヤビメと同じ木花だって。櫂李が桜ばっかり描いてる理由がわかったよな」
「へえ……」
透子さんの視線がまた私に移る。
ドキッとする名前を口にしたのは如月さん。
「俺もいるのに櫂李だけに声かけるのかよ〜」
「あなたとはしょっちゅう会っているでしょ」
「だからってさー、親しき仲にも、だろ? それにしても遅かったな」
さっき会ったときの通り、気怠げな色っぽい声音。
「他のお客様につかまって、なかなか声がかけられなかったのよ」
不満そうに言う仕草がどこか可愛らしい。
魅力的な女性だってすぐにわかるような人。
この人が〝トウコ〟さんだったなんて。
彼女の視線がこちらに向けられる。
「櫂李の奥様よね。ご紹介いただいてもいいかしら」
「櫂李」という親しげな呼び方と、先ほどの冷たさのある笑顔を思い出して少しだけビクついてしまう。
「木花、彼女は網代透子さん。如月と共同でギャラリーを経営している。私の絵の行き先はこの二人に委ねることが多い」
「透子って呼んでくださいね」
「はい……」
如月さんと一緒に見かけた後ろ姿は透子さんだったんだ。
それを知ると、親しげな呼び方もおかしくはないのかもしれない。
それから、櫂李さんは如月さんにしたみたいに私を透子さんに紹介してくれた。
「木に花?」
透子さんも私の名前の字に反応する。
「そう、サクヤビメと同じ木花だって。櫂李が桜ばっかり描いてる理由がわかったよな」
「へえ……」
透子さんの視線がまた私に移る。