花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「なら、ミューズの木花さんから言ってくださらない? 桜以外も描くように、って」
透子さんが呆れたように言う。

「このままではあなた、ミューズどころかファム・ファタールになってしまうわよ」

また、透子さんの声が冷たくなった気がする。

〝ファム・ファタール〟これも授業で習った芸術に関する言葉。
『運命の女』とか『宿命の女』なんて訳されて、一見かっこいい言葉だけど、〝芸術家の男性を惑わせて破滅に導く女性〟なんて意味。
この人は私に敵意を隠す気がないんだ。

「木花がファム・ファタールだというならそれも悪くはなさそうだが、そう悪意を露わにしたような言い方をされると私も看過できないな」

櫂李さんの声は怒っているのがわかるときでも静かだ。
それがかえって威圧感を醸し出している。

「なによ……」

透子さんの声が若干揺らいで、少し怯えたのがわかる。

「はいはい。透子は言いすぎだし櫂李はマジになりすぎだ。仲間のめでたい席で揉めごと起こすなよ。木花ちゃんもびっくりしてるよ」

険悪なムードが流れ始めた瞬間、如月さんが場を収めようと間に入ってくれて安堵する。
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